ちょっと季節外れっぽい話ですいませんが、入り口に、「ビール冷えてます!」というのぼりやステッカーがある居酒屋をみかけますね。あのようなのぼりを見るとなぜ私達はビールを飲みたいと考えてしまうのでしょうか?実はこれ「アンカリング効果」という心理学を巧みに利用したマーケティング戦略の1つなのです。手間を掛けない「言葉の調味料」をビジネスに積極活用しましょう。
“ビール冷えてます”の文字が消費者を動かす
ちょっと季節外れっぽい話ですいませんが、入り口に、「ビール冷えてます!」というのぼりやステッカーがある居酒屋をみかけますね。
通りすがりに何の気なしに見てしまいますが、よく考えると冷蔵庫の普及してない途上国じゃあるまいし、「ビールは冷えているのが当然だろ!冷えてなかったら怒るよ!」と突っ込みたくなります。
なんでこんな当たり前のことを言う必要があるのか。意味があるんでしょうか?
これには実は、意味があるんですね。
冷えているビールは実においしい。とりわけ夏季はググーッと飲み干したくなるものです。
「ビール冷えてます」という文字を読んだとき、私たちは、よく冷えているおいしいビールを頭の中に無意識にイメージしているのです。
そして、飲みたいという欲求が生まれてしまう。せっかくだから「この店で冷えたビール飲もうかな」となってしまうのです。
実際に、この店に全員が入るわけではありませんが、集客数は増えます。
顧客はアンカリング効果で大きく行動を変える
店の提示する情報を元に、顧客がサービスを受け入れたいと感じるこの効果は、社会心理学で言う「アンカリング効果」の一種です。
アンカリングとは、先に提示された情報が、その後の人の判断・行動に影響を与えてしまうことを意味し、「暗示」のようなものと理解すればいいでしょう。
語源は船の錨(いかり/アンカー)で、錨を降ろした船が繋がれた範囲しか動けないことと、顧客が情報を得ることで判断が基準点に縛られることを例えています。
アンカリング効果を利用する際に大切なのは、人が無意識に判断・行動を変えてしまうことであり、押し付けがましくないことです。
アンカリング効果を活用している他の例を挙げましょう。こちらもビール事例ですが、東京都下にある某居酒屋ではお客様のところにビールを運ぶとき、「おいしい生ビールお持ちしました!」と言いながらお渡しするのです。
こうして「おいしい」とつけるだけで、不思議にも普通のビールを美味しく感じてくれるようになります。
微妙な差でしょうし、実のところは勘違いかもしれません。でもそれでいいのです。お客様が「おいしい」と感じてくれればそれが真実です。
アンカリング効果を実証するためのワインの実験も行われています。2つのグラスに同じワインを注いで、一つは500円のテーブルワイン、もう一つはボトル一本10,000円する高級ワインだと告げて試飲してもらうのです。
すると、ソムリエのようなプロはさておき、一般人の多くは、10,000円と言われたほうのワインのほうが「よりおいしい」と判断するのです。
これも、「10,000円もするなら、きっと美味しいに違いない」という思い込みが実際の味に影響を与えてしまうわけですね。
ワインの実験のようなことをお店でやったら「詐欺」になりますのでNGです。
でも、「おいしいビールどうぞ」とか、「この自家製揚げ出し豆腐はおいしいですよ」と堂々と言い切るのは問題ありません。言ったもん勝ちです。
ちなみに、ここまで言って納得出来ない方いらっしゃいましたら、本日の新聞に入っているユニクロの折り込みチラシを見てください。
だいたい1ページ目の目立つに「大人気! ヒートテ◯ク素材 フランネルシャツ」とか出ています。
でもヒートテック素材が採用されていたとして、その商品が大人気か否かについて、客観的な基準がチラシには掲載されていません。
これもアンカリング効果の1つです。
言ったもの勝ちのアンカリング効果をユニクロは、柳井社長が直々に指示して今でも行っているのです。
アンカリング効果は費用をかけず実現可能
こうした表現は、手間をかけずに料理をおいしくする「言葉の調味料」だと言えます。
メニュー表に一手間加えて商品の詳しい情報を掲載したり、スタッフが商品について詳しくストーリーを伝えることができることも、アンカリング効果を生み出します。
逆に言えば、商品価格を抑えるために、手っ取り早く顧客対応を簡素化する、もしくは一切しないという選択を行う企業も多々有りますが、これはアンカリング効果というお金をかけずに、消費者を惹きつけるチャンスをやすやすと見逃しているとも言えます。
アンカリング効果をばんばん活用しましょう。他の製品・サービスにも応用してみてください。
画像:CLF