人は単に「品質が良いから」「価格が安いから」といった合理的な理由だけで商品を購入することがありません。なぜならビジネスには「返報性の原理」という原理が根底に存在し、「誰かに対する借りはなんらかの形で返さないではいられない」という気持ちの元に人が動くからです。ビジネスを永続的に成長させるために、たとえ不効率でも「誠実さ」こそ最強の販売戦略であることを覚えておきたいものです。
人は合理性だけで経済行動を決めるわけでない
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
節約社長のメンバーとして初めてのニュース投稿となります。
私は長年、お客様の「買いたくなる心理(購買心理)」を研究してきました。どうして人は、たくさんある製品・サービス・店舗の中から特定のブランドを選び取り、購入するのでしょうか?
人が特定のブランドを選択・購買することには様々な要因がからんでくるため、上記の問いに対するシンプルな答えはありません。ただ、ひとつ言えるのは、人は単に「品質が良いから」「価格が安いから」といった合理的な理由だけでは購入しないということです。
人は、時にあまり品質が良くなくても、また価格が安くなくても、むしろ価格が高いからこそ喜んで購入する場合があります。
すなわち、人は「合理性」だけで製品・サービス・店舗を選ぶわけではないということです。
量販でなく小さな電気屋で商品を買う顧客心理
たとえば先日、次のような話を耳にする機会がありました。
あるリフォーム店では、家電品のカタログ販売を行っています。ある日、お客様から、扇風機が壊れたということで、カタログに掲載していた扇風機に対する注文が入ったそうです。それは週末に帰郷する息子さんのためのものでした。
しかし、カタログ販売なので店舗在庫はありません。メーカーからの出荷のため、息子さんの帰郷に配送が間に合わないということで、やむなくキャンセルとなったのです。そしてそのお客様は、近くのホームセンターで扇風機を購入されたとのこと。
お客様の「帰ってくる息子に暑い思いをさせたくない」という親心に応えることができなかったリフォーム店の店主は、「お役に立てずごめんなさい」という内容のはがきをこのお客様に送りました。
しばらくして、このお客様から電話があり、今度は「炊飯器」の注文が入りました。炊飯器も壊れかけているので買い替えをすることにしたようです。お客様は電話口で、前回この店で扇風機で買えなかったことを詫びられたそうです。(買えなかったのは店側の都合ですから、謝らなくてもいいんですけどね!)
このお客様は、扇風機と同様、近くのホームセンターで炊飯器を買えば、その場で手に入るし、おそらくカタログ販売のものより安く買えたはずです。それなのに、なぜわざわざリフォーム店に対して高いお金を払い、商品が届くまで待とうとしてくれたのでしょうか?
この店主とお客様の間の暖かなやりとりの背景には「返報性の原理」が働いています。「返報性の原理」とは端的に言えば「誰かに対する借りはなんらかの形で返さないではいられない」という気持ちです。
上記のエピソードでは、扇風機を販売できなかった店主が手間をかけてお詫びのはがきを送りました。(本来、そこまでする必要なないですよね)これを受け取ったお客さんとしても、「わざわざお詫びのはがきまで送ってきてくれて申しわけない」という気持ちになったに違いありません。
この「申しわけない気持ち」は、実は「借り」の一形態です。
だからこそ、炊飯器については、お客様は、たとえ割高でも配送期間が長くても、ホームセンターではなく同店で購入することで、店主に対する「借り」を返そうとしたわけですね。
ビジネスで最強の販売戦略となるのは誠実さ
リフォーム店店主としては、お客様の将来の購買を期待して詫びのはがきを出したわけではないでしょう。自分の自然な気持ちに従い、誠実な対応をしただけです。しかし、お客様はそうした行動を「誠実」と感じてくれる。そして、その誠実さに対して、お客様も誠実な行動で返してくれることが多いのです。
私は、ビジネスにおいては「誠実さ」が最高の販売戦略だと考えています。小手先のテクニックを用いて、お客様をある種だますようなセールストークで目先の売上を上げたところで永続的な取引にはなりません。
ただ、「誠実であろうとすること」にはビジネス的な問題があります。それは、誠実であろうとすると、多くの場合、手間がかかったりして「非効率」になる点です。しかし、私は長年の研究から、お客様とのコミュニケーションにおいては絶対に効率を追求してはいけない分野があると確信しています。
「節約社長」では、文字通り「節約」や「効率化」がメインテーマですが、私はあえて、積極的に非効率を目指すべき局面もあるということを天邪鬼(あまのじゃく)ながらお伝えしていきたいと思っています。
引き続き、よろしくお願いします!