イップスとは何らかの原体験で精神的なショックを受けたせいで、潜在的な「できない」という意識が動作に支障をきたし、今まで出来たプレイができなくなったり、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害である。
経営者も経験を重ねることにより、ある時突然のショックで決断できなくなる「決断イップスに」かかる場合がある。対応策を提示する。
ビジネスマンにもイップスは突然発生し得る
素振りでは「トップ」から「フィニッシュ」まで綺麗な軌跡のスイングを見せるにも関わらず、いざ本番になると彼はどうしても「インパクト」の瞬間に固まってしまうのだ。
スポーツにおいて特定の選手が悩みを抱えるこの症状は、イップス(Yips)と呼ばれている。
イップスとは本来、子犬がキャンキャン吠えることを英語で表した“Yip”に語源派生しており、何らかの原体験で精神的なショックを受けたせいで、潜在的な「できない」という意識が動作に支障をきたし、今まで出来たプレイができなくなったり、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害である。
もともとはゴルフ用語であったが、現在では野球、テニス、サッカーなどあらゆる競技で同様の体験をする選手が、イップスと診断されている。
- サッカー:ノーマークのシュートを外して以来、シュートが思い切って打てない
- 野球:大舞台でサヨナラホームランを浴びて以来、同じゾーンにボールが投げられない
- テニス:試合中にフォアハンドで大飛球を打って以来、思い切ったフォアハンドが打てない
などがあげられる。
さて、ビジネスマンもプロフェッショナルである点は、スポーツ選手とは何ら変わりない。
特に経営者の中では「決断イップス」に陥ることで悩んでいる人が多い。
決断を出せないのはおろか事業意欲をなくしてしまい、自分がトップの地位に就いたまま責任を放棄し表舞台から去り、はたまた破滅的な行動を取るようになり、現場に取り残された幹部や社員達が混乱状態に陥ってしまう会社すらある。
決断イップスに陥った時に気をつける4つの点
突発的にショッキングな体験をし、「こんな苦しいのはコリゴリだ」「こういうことを言ったらまた裏切られる」「これ以上誰かを傷つけたくない」といった潜在意識を無意識に持つと、決断に関する思考が停止し、決断イップス症状が現れ始める。
「決断イップス」の症状が出始めたと感じた時に取る行動を、以下提示する。
1)決断イップスを受け入れ適度な休みを取り入れる
自分が決断イップスにかかったと感じた時は、まず社内外に話を漏らさぬ信頼できる人間へ現状を打ち明けることにより、自分自身のありのままを受け入れる必要がある。自律神経に不調を来している場合があるので、意識的に休みを設けることや、早く帰宅することを心がけ、自分だけの時間を持つことが重要だ。
2)トップ・ギアで走らず信頼して多くを委ねる
決断イップスにかかっている経営者の多くは、プレイヤー兼経営者である場合が多い。「自分が一番良いプレイヤーであり、会社の全てを決める人間」なのだ。大抵この症状に襲われる人の多くは、根が真面目で責任感があり、サービス精神が旺盛かつ、心が優しい、といった特性を持っている。決断イップスに陥ると、彼はなおさら仕事に精進しようとするが、多くの場合は逆効果となる。今はおぼつかなくとも権限を積極的に社員に委ねて、プレイヤーとして自分のトップ・ギアを緩める必要がある。
3)うまくいってた時の勝ち癖を取り戻す仕事を行う
決断イップスに陥った経営者は自分の思考に自信を失っており、一時的に健全な状態の精神的「型」を崩してしまっている。このような時は、うまく行っていた時の精神的「型」を取り戻すために、勝ち癖を取り戻す必要がある。すなわち「自分にやれる仕事」「自分が得意な仕事」を意識的に取り入れて、一つ一つクリアすることで、自尊心とうまく行く時の精神的なバイオリズムを思い出す必要がある。勝ち癖を思い出すまでは、自分の心地よいペースを決して崩してはいけない。
4)人間関係を適度な距離に保ち話を鵜呑みにしない
決断イップスになる経営者は、素直な人間であることが多い。そのため、うまく行かないときに人からのアドバイスを必要以上に吸収しようとして、更に自分の勝ち癖を見失いがちになる。もし良かれと思って、第三者が与えるアドバイスがあったとしても、今の自分にとって心理的圧迫感を与えるような話は鵜呑みにしないことが重要だ。
基本に戻り決断イップスを克服するのが重要
決断イップスは精神的に弱いからなるものではなく、突発的な体験を原因として生じるものだ。
経験によって失った自信や判断能力の鈍化は、経験によって取り戻さなければならないが、同時並行でメンタル面の余裕を持つことが重要になる。
今までやっていたことを他人に移譲し、自分が今できることに集中するのは、決して後退を意味しない。
その時、決断イップスに陥った経営者は、更に一段高い視点から経営に携わることが可能となる。