ベトナムの首都ハノイで18日(月)、初代国家主席ホー・チ・ミンの生誕125周年を祝う式典が盛大に開催された。ベトナムの社会主義は、「ホー・チ・ミン思想」のもと柔軟に市場経済を取り入れて発展を遂げた。一方で貧富の差が拡大し、汚職は蔓延、官僚主義の弊害も顕在化している。思想の原点に立ち返った高度な政治発展が次の一歩として必要になる。
ベトナム・ホーチミン生誕125年で祝行事
ベトナムの首都ハノイで18日(月)、初代国家主席ホー・チ・ミンの生誕125周年を祝う式典が盛大に開催された。
フランスの植民地支配や日本による占領からの国民開放を成し遂げ、更にベトナム戦争でアメリカから勝利を勝ち取ったことにより、ホー・チ・ミンは、ベトナム人から「国家の父」と呼ばれるようになった。
ベトナム戦争では、社会主義国家である中華人民共和国やソ連から支援を受けて、アメリカの撤退を決定づけた。
それ以来ベトナムは社会主義国であり続け、今でもベトナム共産党による一党独裁制度が敷かれている。
ベトナムの社会主義国家としての体制は、「ホー・チ・ミン思想」という独特の思想を根幹に成り立っている。
ホー・チ・ミン思想とはどのような思想か、本稿では紐解いていきたい。
ホー・チ・ミン思想は国民本位で打算的
ホー・チ・ミン思想に厳密な定義はないが、「自力で国家としての独立を達成し、自由な国づくりに国民全員が汗を流して加わり、階級の差別なく国民すべてが幸福になることを目指す思想」という概念で表されることが多い。
早稲田大学教授・坪井善明氏は自著「ヴェトナム新時代」で「ホーチミン思想の理論的根拠は、フランス革命の自由・平等・博愛という共和国精神」と解釈を行っている。
その姿勢は、一党独裁を維持するため言論の自由へ制限をかける一方で、ホー・チ・ミンの時代以来、ベトナムで現役の指導者が個人崇拝の対象となることがないことに現れている。
更にベトナムでは、社会主義に市場経済システムを取り入れる「ドイモイ政策」が採用されており、世界諸国との積極的な貿易が行われている。
2013年にはベトナムが市場経済に門戸を開いた国であることを世界へアピールするため、国家の正式名称を「ベトナム社会主義共和国」から「ベトナム民主共和国」へ変更する議論まで行われた。
ホー・チ・ミン思想は、政治権力が絶対的な支配力を有しながら、国民にとって利益となるならば、資本主義と社会主義の良い所を柔軟に折衷し取り入れることが可能な、極めて打算要素の強い社会主義なのである。
それでも障害となっているのが一党独裁体制
ドイモイ政策によりベトナム経済は飛躍的な進展を遂げてきた。
2015年のGDP(国内総生産)成長率は6%以上の伸びが予想され、現在約9,200万人程度の人口もあと5年程度で1億人に到達する予想が出ている。
ただしその裏で、貧富の差が拡大し、汚職が蔓延し、官僚主義が強まるなど、様々なマイナス面も顕在化している。
良くも悪くもベトナム共産党の一党支配によるバイアスがかかるのだ。
党・政府も汚職防止を強化するため、2013年からは閣僚級以上の指導者に対して、国会議員による信任投票の実施も始めたが、これも付け焼き刃である。なぜなら国会議員の9割以上が共産党員だからだ。
ホー・チ・ミン思想の根幹にある「国民すべてが幸福になることを目指す」という考えの元、高度な政治発展がベトナムの更なる成長に必要となっている。