今年は日露戦争(1904〜1905年)が終戦となり110周年を迎える年である。
雌雄を決した日本海海戦で秋山真之が打電した「本日天気晴朗(せいろう)ナレドモ浪高シ」にはあらゆる情報が詰まっていた。
限られたコミュニケーションしかできない当時に出来た名文は、コミュニケーションツールが発達した今も「短い言葉」で伝えることの重要性を教えてくれる。
限られた言葉で伝える必要があった明治時代
今年は日露戦争(1904〜1905年)が終戦となり110周年を迎える年である。
日本のロシアに対する勝利を決定づけた日本海海戦が行われたのは、ちょうど110年前の5月末(5月27〜28日)だ。
戦時中の情報伝達は、朝鮮半島と日本間など日本周辺に張り巡らされた海底ケーブルを利用し、モールス信号で行われていた。
最前線と大本営の間では、情報や命令のやりとりを短時間で行うことが可能であったが、伝えられる情報量は1分間で20数文字と限られていた。
そのため最前線にいる指揮官には、短い言葉で「より多くのことを的確に」大本営へ伝える必要があった。
この分野で天才と言われているのが、司馬遼太郎作「坂の上の雲」の主人公となった秋山真之(あきやま さねゆき)である。
本日晴天なれども波高しに真之が込めた意味
真之の残した名文は様々あるが、一番有名なのが、海戦当日に大本営へ送った電信内の「本日天気晴朗(せいろう)ナレドモ浪高シ」という言葉だ。
漢字を入れて表しても13文字、ひらがなで表記しても20文字程度しかない一文は、大本営に対して何を伝えたのだろうか?
文章を分解してみよう。
本日天気晴朗
まずこの文章は日本海海戦当日(5月27日)に、対馬沖の天気が視界良好でとても良いことを伝えている。
更にはロシア艦隊と戦うには絶好の日であること、日本艦隊は戦う準備が十分に整っていることを本部に報告している。
ナレドモ浪高シ
情報が詰まっているのは後半である。この言葉は単純に波が高いことを伝えるだけではなく、どのような作戦を行うかまで伝えている。
つまり波が高いことにより「機雷」が操作しにくく、かえって自船を傷つける可能性もあるため、日本が得意とする戦艦による砲撃戦の展開を本部に連絡しているのだ。
天気、海戦の可否、戦術に至るまで戦いに必要な全ての情報を、真之は「本日天気晴朗(せいろう)ナレドモ浪高シ」という言葉に込めた。
同海戦で海軍元帥の東郷平八郎が、Z旗で艦隊総員へ伝えた「皇国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」という言葉も、真之が作ったものである。
たったこれだけの短い言葉で、艦隊の士気は大いに上がったと言われている。
わかり易い言葉で簡単に伝える訓練をしよう
現代社会においてコミュニケーションツールには様々な選択肢があるため、私達は相手に一度で伝える情報量を意識しにくくなっている。
しかしながら日本語はとても便利で、漢字・ひらがな・カタカナの3つを駆使すれば、短い言葉でより多くの情報を伝えられるようになっている。
俳句に「5・7・5」という制限があっても、様々な名句が生まれるのが証である。
もし一生懸命に相手へ伝えているのに伝わっていないなら、短い言葉に多くの意味を持たせることを意識してみよう。
今よりも1つの言葉1つの文章に、相手は注意してくれるようになることだろう。