産廃処理業者Bから5年分の支払い請求を受けたAさん
あるところに建築会社を営んでいるAさんがいました。
建築会社の加工場ではいつも産業廃棄物が出るので、Aさんは適正にその処理を馴染みの業者Bへ委託してきました。
ところが、産業廃棄物の処理を委託していた業者Bは、散々Aさんが請求を要請したにも関わらず請求書を提出せず、平成30年3月の今になって、平成25年度分まで支払い請求してきました。
果たしてAさんは産廃処理業者Bに、遡って費用を支払わなければならないのでしょうか?
その場合、債権の時効は何年なのでしょう?
産廃処理業者BがAさんに対して持つ債権の時効は?
まず、この両者間の処理委託契約は「商人間」のものであることを前提としましょう。
だとすれば、商人間の債権の消滅時効は(債権を請求することができるときから)5年間というのが原則です。
これよりも、さらに短い「短期消滅時効」に当たるかどうかがポイントになります。
まず、産廃の「処理」と言っても、大きく二つの契約に分かれます。
一つは「収集運搬」契約、もう一つは「処分」契約です。
「収集運搬」契約
収集運搬は「運送契約」であり、民法第174条(1年の短期消滅時効)に規定される「運送賃に係る債権」に該当します。
商法第589条、第567条にも、
『運送取扱人ノ委託者又ハ荷受人ニ対スル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス」
という規定があることから、運送賃の支払日から「1年」経過してしまれば、時効により消滅することになりそうです。
「処分」契約
処分は「請負契約」であるとされています。
民法には、請負契約による債権の短期消滅時効を記載したと思われる条文が二つあります。
一つは「3年」を規定した民法第170条なのですが、これは、「工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権」であり、建築工事を前提とした規定と言えます。
もう一つは、第173条(2年の短期消滅時効)で、ここには「自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権」とあります。
「他人の委託を受けて、破砕・焼却・中和・選別・・・等々、自己の技能を用いて、自己の仕事場で、他人のために仕事をすることを業とする者が行う仕事に関する債権」、産廃処分に合致しています。
これで、産廃処分契約から発生する債権は「2年」の短期で消滅することになりそうです。
債権を時効によって消滅させたBに落ち度あり
以上の考察から、運送料金に関しては支払日から1年間、処分料金については2年間の支払いに応じることで足りると考えます。
ただし、
・請求書を送り続けていたとしても時効の中断(進行している時効期間は一旦リセットされ、ゼロから再スタートする)にはならないこと
・時効の効果は時効を援用(時効の完成を明確に主張)しなければならないこと
・時効完成後でも消滅した債権の一部を支払ってしまえば時効は完成せず、知らなかったでは通用しないこと
以上の3点には注意してください。
いずれにしても、営利活動を行っている会社が、自己が有する債権を“みすみす”時効により消滅させてしまうことなどあってはならないことです。
自社の経費を使って行った仕事の対価が回収できないことは、会社の重要な資産の無駄遣いに他なりません。
債権の回収は、ある意味、最も重要な業務であると言えるでしょう。
不測の事態が発生した場合には、速やかに「裁判上の請求」を行うことも検討する必要があると考えます。
なお、民法改正により、債権の短期消滅が問題となるケースは減ると思われますが、法律が施行される日より前に生じた債権については、現行の民法が適用がなされることになるため、この投稿も現民法の規定を中心に考察したものとなっています。