衰退企業と優良企業では上司の命令を聴く理由が違う
同業で同じ時期に事業を始めたにも関わらず、繁栄する企業と衰退する企業がある。
そして、衰退する企業の多くは、自ら「まずい」と感じながら、衰退を食い止めることができず、やがては破綻を迎えることになる。
日本における企業再生の第一人者、小木武彦氏が昨年5月末に上梓した「衰退の法則」は、実に87名以上のプレイヤー(OB含め)へ121時間にもおよぶインタビューを敢行し、衰退する会社に見られる特徴を客観的にまとめた名著である。
本著では自分たちで理解していながらも衰退を止められない日本企業に、
- 過剰な「和」志向
- 経済合理性から離れた内向きの合意形成
- フリーライダー問題
- 経営者のリテラシー不足
という共通点が見いだされると説く。
中でも筆者にとって印象的だったのは、部下たちがなぜ上司の命令を聴くのか、その理由が優良企業と衰退企業では全く異質のものであったと記す部分である。
部下に影響力を与える4つのパワーベースとは
経営学にはパワーベースという概念があるが、これは他者に対する影響力の源泉を指す概念で、これには4つの種類があるという。
以下の通りだ。
1)同一パワー
「その人のようになりたいから指示に従う」と部下に思わせる力をいう。
わかりやすい例で言うと、スティーブ・ジョブズにあこがれて、彼のようになりたいと思う人間がアップルに入り、ジョブスの意見に納得する・せざる関係なく、この人のようになるために必死で着いていきたい、と感じる影響力のことである。
2)情報パワー
情報パワーとは、「その人の持っている情報が的確で判断も適切である。」と思わせて指示に従わせる力のことをいう。
諸葛亮孔明のように、軍師タイプの上司がよく影響力として部下に与える傾向がある。ロジックを重要視する優秀な組織を率いるリーダーによく見られるパワーだ。
3)正当パワー
「正当な権限」にもとづき、部下を従わせる力のことを言う。
組織である以上、冗長であれば通常備えているパワーである。
キャリア、出自について正当な背景を持つものが、このパワーベースにより部下を従わせるのは、皆さんもよく見る光景ではないだろうか?
4)賞罰パワー
賞罰パワーとは、「その人に従えば良いことがあるだろうし、従わなければ後が怖い」と感じさせるパワーのことである。
古来より、政治の世界で発展してきた、トップダウンの組織に多いパワーベースである。
衰退企業と優良企業でパワーベースは全く違う
では、衰退企業ではどのパワーベースによる影響力が部下を動かしてきたのだろうか?
小木氏が衰退企業に勤めていたOBや第三者にヒアリングしたところ、破綻(衰退)企業においては4つのパワーベースのうち、3)正当パワーや4)賞罰パワーが、部下への影響力として大きくはたらいており、1)同一パワーや2)情報パワーの影響力といったパワーベースはほとんどはたらいていなかったという。
衰退企業では、能力ではなく権限で人を動かす傾向が如実に現れているのだ。
逆に、同業種の優良企業においては、1)同一パワーや3)正当パワーの影響力が多い、という意見が圧倒的に多かった。
将来自分もそうなりたいという存在の人間が影響力を持ち、誰もが納得する人間が、当然のように出世する組織ほど優良企業となりやすい、と言って良いだろう。
あなたは、どのパワーベースに基づいて、部下に影響力を与えているだろうか?もう一度、客観的に再確認してほしい。