オンライン・マーケットプレイスの巨人アマゾン。「顧客第一主義」を行動指針に掲げて躍進してはいますが、昨年末、消費者庁はアマゾンジャパンに対して不当な二重価格表示をしたとして、景品表示法違反(有利誤認) の措置命令を行いました。アメリカでも「Discount Provided by Amazon」という新割引プログラムが始まりましたが、公正な競争を阻害するのでは?と懸念されています。同社の動きが本当に顧客第一主義なのか?注目が集まります。
EC業界の覇者として躍進を続けるアマゾン
オンライン・マーケットプレイスの巨人アマゾン。
2016年度のネット販売実施企業EC売上高ランキングで、アマゾンジャパンは2位以下の企業を大きく引き離してトップ、前年比17.6%の増収となり売上高1兆円を突破しました。
2位はヨドバシの約1,080億円、3位はスタートトゥデイの約763億円となっておりますが、見ての通り売上高の桁は1つも2つも違います。
参考リンク:【2017年版】EC売上高ランキングまとめ(ネットショップ担当者フォーラム 2017.9.27)
「顧客第一主義」を行動指針に掲げて、EC業界の覇者として躍進を続けるアマゾンですが、昨年末、販売価格をめぐる問題が報じられたことに注目しています。
米国でスタートした割引プログラム「Discount Provided by Amazon」
昨年11月の海外報道で、アマゾンが出品者の商品を割引販売する「Discount Provided by Amazon」という新しい割引プログラムが米国でスタートしたと報じられました。
参考リンク:アマゾンの値下げ攻勢さらに続く今度は出品者の商品も値下げ(Jbpress 2017.11.8)
参考リンク2:アマゾンが出品者の商品を割引販売する新プログラムの詳細と米国での反響は?(ネットショップ担当者フォーラム 2017.12.14)
内容は以下のようなものです。
- ・アマゾンの値下げはこれまで、同社が自社で仕入れ、直接販売する商品だけが対象だった。
- ・マーケットプレイスで商品を販売する販売事業者の商品価格を引き下げて(最大9%)販売し、その差額はアマゾンが負担する。
- ・マーケットプレイスで扱う全アイテムではなく、アマゾンのフルフィルメントサービス「FBA(Fulfillment by Amazon)」を利用して販売している商品が対象となっている模様。プログラムの退会も可能。
ちなみに、FBAとは販売事業者が物流倉庫代と配送手数料をアマゾンに支払って物流業務を委託するプログラムのことです。
「Discount Provided by Amazon」がもたらす弊害の可能性
この値引き販売プログラムは米国で始まったものですが、アマゾンジャパンでは、これまで「最安値保証契約」というものがあり、これが独占禁止法違反の疑いがあるとして公正取引委員会の調査を受け、昨年6月に契約内容を全面的に見直したという経緯があります。
参考リンク:アマゾンジャパン、最安値保証契約見直し 公取委の独禁法違反調査受け(通販新聞 2017.6.8)
この「最安値保証契約」とは、アマゾンと競合する仮想モールや通販サイトと同等かより安い価格・最多の品ぞろえとしなければならないなどの条件が盛り込まれたもので、それが順守されるよう調査を行い、守っていない出店者には順守するよう求めるものでした。
この契約が独占禁止法違反として問題視された点は以下のような点です。
- ・出品事業者が他の仮想モールなどで自由に商品の価格の引き下げや品ぞろえを拡大できなくさせ、事業活動を制限するおそれ。
- ・競合の仮想モールが出店者への手数料を引き下げても、それが出店者の商品価格の引き下げや品ぞろえ拡大につながらなくなるおそれ。
- ・アマゾンが競合モールと競争する努力をすることなく、最も安くまた、最よい品ぞろえを実現できることでEC市場の競争や新規参入が阻害されるおそれ。
前述のアメリカの新割引プログラムでは、値引きの差額をアマゾンが負担し、身銭を切って最安を目指す価格戦略を取ったともいえます。(「身銭」と言っても、適用されたのはFBAを利用している商品なので、FBA手数料でアマゾンは回収できますが)
一方、事業者にとっては、この新割引プログラムに乗れば商品の価値自体が下がってしまい、他のチャネルでも販売価格を下げざるを得なくなる恐れがあります。
逆に乗らなければ、価格優位性を失い競合事業者に売り上げを奪われる恐れがあります。
いずれにしても、事業者にとって価格決定権というマーケティング上、非常に重要な要素をアマゾンに奪われるかもしれない危険な施策と言えそうです。
アマゾンのディスカウントは本当に「顧客第一主義」か?それとも…
そんな中、2017年も押し迫った12月27日、消費者庁はアマゾンジャパンに対して不当な二重価格表示をしたとして、景品表示法違反(有利誤認) の措置命令を行いました。
参考リンク:アマゾンジャパン合同会社に対する景品表示法に基づく措置命令について(消費者庁 2017.12.27)
ウェブサイトの商品ページで、メーカー小売価格より高かったり根拠がなかったりする金額を「参考価格」として掲載していたというもので、アマゾン側が販売事業者の入力した参考価格が適正かのチェックを怠っていたということです。
消費者としては、価格が安くなるのはありがたいことですが、本当に「顧客第一主義」なのか、単にビジネスの勝者を目指しているのか、今後も見守っていきたいと思っています。