日本年金機構による社会保険調査の頻度が上がっています。調査の過程では、加入が適正に行われているか?支払いの元となる賃金が適正に申告されているか?加入日が遅れていないか?という3つの事項が主に調べられます。
中でも加入日の遅れが生じていた場合、費用負担は倍増となるケースも生じます。適正な申告を心がけましょう。
日本年金機構の社会保険調査頻度が増えている
ご存知の方も多いと思いますが、日本年金機構は社会保険庁の年金不祥事問題を是正するため、2010年に特殊法人として民営化された団体です。
お役所体質を今も抱えていることは事実ですが、個人情報漏洩、年金記録のずさんな管理など、諸問題がある程度落ち着いた数年前位から、急に社会保険調査を頻繁に行うようになりました。
私の顧問先でも、感覚値とはなりますが、以前は100社あって1〜2社が年間で調査に入られるところを、今では7〜8社に調査へ入られるくらいの頻度となっております。
「自分のところは、まだ一度も調査に入られたことはない」とおっしゃる経営者の方もいるかもしれませんが、やがては調査の対象となることを見越しておくほうが良いでしょう。
そこで本稿は、
- 社会保険の調査では具体的にどんなことが調べられるのか?
- 不備が見つかった場合、最悪どんな事態が生じるのか?
という点について、ご紹介したいと思います。
社会保険調査で主に調査される3つの事項は?
社会保険の調査で調査される事項は、基本的に以下の3つです。
- 社会保険に加入すべき労働者を、加入させているか?
- 法律通りに賃金の額が申告されているか?
- 社会保険に加入している労働者の加入日が、正しく加入されているか?
という3つの事項です。
この中でも、3の「社会保険に加入している労働者の加入日が、正しく加入されているか?」については、会社の事情で加入日を遅らせるケースが多々あります。
社会保険の加入を遅らせる理由は、
- 入社した社員がすぐに辞めたので支払わなかった
- 大量採用したのでキャッシュアウトを遅くして節約するため
などそれぞれの理由があるようです。
ところがこれをやってしまうと、後々のペナルティが非常に大きいものとなってしまいます。
社会保険料の徴収時効で起算点は入社日のみ
たとえば、過去2年間に入社日より何ヶ月か遅れて社会保険に加入させている場合は、溯って加入日を入社日に変更しなければならなくなります。
仮に、入社日より半年後に社会保険に加入させていた場合には、半年前に溯って加入日を変更しなければなりません。
実際にこのようなことが起こったら、「半年間も溯るの?もう少し短くならないの?」と思われる方もいることでしょうが、行政官庁は「根拠の無い日付」というものを用いることがありません。
加入日を溯る場合に「根拠のある日付」として認められるのは、入社日だけということになります。
未払いが発覚した場合に会社が背負う痛い負担
社会保険の保険料は月単位となっています。
もしも、半年前に加入日を溯るということは、半年分の保険料を支払いが発生するのです。
仮に1ヶ月の保険料が、健康保険と厚生年金保険合せて5万円だとした場合、5万円×6ケ月=30万円の保険料が必要となり、これを一括で支払う必要があります。
もし、同じように入社日と加入日が半年違っていた労働者が3人いれば、90万円の保険料が必要となってきます。
もちろん、保険料の2分の1は、労働者が負担するのがルールですので、労使折半で45万円を会社が負担するのがセオリーですが…
ところがどっこい、会社の都合で社会保険の加入日を遅らせたのに、「過去の保険料をこれからの給料から差し引くので、自分で半分支払ってくれ」と労働者に言ったところで、相手は「そんな金はない!」と思うのが当たり前です。
このようなことを当たり前に行う会社をもはや信頼してくれなくなるでしょうし、仕事に対するモチベーションも大きく損なわれるでしょう。
結局は労働者負担分も会社が負担して支払う形になり、少しケチって節約できたと思ったはずが、倍返しで大損を食らう結果となってしまいます。
未払いが発覚すると信用も落ち手間も倍かかる
運良く労働者が過去の社会保険料を負担してくれることになったとしましょう。
それでも給与計算時の手間も増えますし、加入日の溯りの手続きをしなければならないなど、会社の手間は倍に膨れ上がります。
更には、調査で加入日の溯りの指導等を一度受けたことにより会社がマークされ、次回の調査までの間隔が短くなるなど、今後の不安も大きなものとなります。