九死に一生を得て、そろそろ泥臭い業務を仕組み化しようと思った時に、優秀な社員が集まり始めるのですが、優秀だと思っている彼らが陥りがちなイケてない思考回路があります。その影響は、すぐに顕在化するものではありませんが、やがて会社を停滞させる要因となりがちです。
上手く行き始めて優秀な社員を雇えた気がする
企業を立ち上げた当初というのは、現実問題として優秀な社員が会社に入ってくれません。
大体のケースで、能力云々とかそういうこと抜きに、貴方の夢や志に惚れて入った社員が、不格好ながらも一生懸命に、会社を盛り立てようとしてくれるものです。
貴方の置かれた状況も色んな面で本当に大変ですから、創業メンバーも貴方に惚れた分、損得を考えずに昼夜を共にして、凄く不効率な作業を、やっぱり凄く不効率に、気合で乗り越えようとしてくれます。
「こいつら最高だ。この恩は忘れない。俺が一生面倒見る。」と思ったりします。
うまく行けば、九死に一生を得て、会社はやがて立ち行くようになります。
何とか会社の体裁が整い始めると、採用活動を始めます。
もう気合で乗り越えるのはシンドイ、今のメンバーだけではダメだ。ビジネスを更に仕組み化し、優秀な人材を会社に引き入れないと、もう伸びない。
そこで、凄く良い創業ストーリーを作って、今流行の共感型採用サイトあたりでメンバーを募ります。
すると、とてもスマートで優秀な人材が会社に入るのですが、実際にこの人材はそれなりに優秀です。
でも、会社がうまくいき始めた時に集めた人材だからこそ、彼らは優秀な中途採用社員が陥りがちな、典型的思考回路にハマる場合があります。
どんな思考回路に彼らは陥りがちなのでしょうか?
有能だと思っている社員が陥りがちな落とし穴
1)主導権は我にありと考えがち
親の苦労を知らない、2・3代目社長が陥りがちな思考回路と似ているのですが、彼らは「交渉の主導権は我にあり」と考えがちです。
いわゆる裸の王様です。
どのような過程を経て、今の主導権(イニシアチブ)を自社が獲得したのか、頭ではわかっても(わかってない場合も多い)、本当の意味で理解できていません
取引の経緯を理解していないので、交渉は非常に単純です。
「◯◯円以下ならやりますが、◯◯円以上ならやりません。あくまでも経済的合理性を元に、弊社にメリットがあるチョイスで考えさせていただきます。」と。
これを最初から、相手にぶつけてしまいます。
なぜなら、「私の所属するこの会社は既に取引において統制権や主導権を握っている。」としか考えられないからです。
しかしどうでしょうか?
老練な営業マンや、自ら身体を張り営業する経営者にとって、これほどカモになる相手はいません。
優秀なはずの彼が、最初から手のうちを明かしてしまっているからです。
手のうちを明かせば、取引先は貴方の会社との取引からすぐに去るか、彼の弱みをほじくりはじめます。
2)数の原理が全てを制すると考えがち
会社が立ち行くようになると、貴方の会社はある程度、数の原理(規模の経済性)と契約を根拠に仕事をし始めているはずです。
ところが優秀な中途の彼に見えている数字は、売上マイナス費用、多分これっぽっちでしょう。
しかし、創業当初に苦労したメンバーは、いくら数のパワーを手に入れたとしても、それだけを餌に交渉を進めることはないはずです。
規模の経済性はあくまで手段の一つであることを理解し、本質的にビジネスを継続させるものではないことを、自らの身を持って知っているからです。
規模の経済性を効果的に発揮させ、相手と円滑なビジネスを進めるためには、自分達と関わることによる信頼と希望を抱いてもらう必要があります。
信頼と希望が、自発的なコスト削減と、対価に見合った仕事を生み出し、取引のモチベーションとなるからです。
しかし、上手く登りはじめた時に入社した社員は、単純な数字で押せば良いと思う分、その重要性に気が付かず、とにかく理詰めで取引先と交渉しがちです。
その結果どうなるかといえば、相手も数字だけで話始めることでしょう。もう数字しかありませんから、彼を手駒に取ろうとしか考えていないはずです。
3)上手く行かなくなった時に他責思考に陥りがち
最初の2〜3年は、自社の握る主導権と数の原理で、無理やりにでも話を進めることは可能でしょう。
しかし、彼は必ず失敗します。
先述のような単純な優位性と、規模の経済性でしか話ができないために、取引先がいなくなるか、取引先が彼の弱みにつけ込み有利な取引を始めるからです。
その責任は誰のものとなるでしょうか?それはもちろん、経営者である貴方です。
しかも都合の良いことに、上手く行かなくなりはじめた彼も、責任は貴方にあると考え始めます。
自分は会社が有する主導権を活かし、会社が持っている規模の経済性を働かせて、交渉を行ってきたと。自分は会社のことを考えてやってきたんだと。
ところで、彼の行動に、志はあったのでしょうか?
優秀であったはずの彼は、結局何も成し遂げず、年収が100万円か200万円高い転職先へ、「俺はこんなに凄いんです!」といった感じで経歴ロンダリングしたあげく、あっさり貴方の会社から去っていくことでしょう。
泥水をすすり自分で生み出さねば人は伸びない
優秀な彼に足りないものとは何でしょうか?
それは、自ら泥水をすする覚悟を持ち、ゼロベースで探求し、何かを勝ち取った(相手を活かしながら)経験がないことです。
幾ら優秀だとポジションを与えたところで、結局最初のうちは、自分の年収やキャリアしか見てませんから、それを如何に勝ち取るかという過程を自発的に考えられないうちは、頭を下げることの大事さを理解してもらう業務も兼業したほうが良いかもしれません。
そういえば、ソフトバンクの後継者と言われた、ニケシュアローラ氏が22日付けで退任することが決まりました。
ひと目会っただけで、孫さんは「こいつは超優秀だ」と思ったはずなのでしょうが、何かが違ったのでしょうね。
詰まるところ、そういう経緯があったのではないかなと、邪推せざるを得ません。