「お好み焼き」といえば「オタフクソース」を使用することは世の中で常識として受け入れられている。お好み焼き市場は2,000億円にも到達する巨大市場であり、オタフクソースは市場の母と言えるほどお好み焼きの全てに関わるユニークな企業である。特定のニッチ分野への集中と選択が効率化につながり、ソース市場に君臨する会社に迫る。
オタフクソース お好み焼きに狂う企業
お好み焼きと言えば「オタフクソース」という図式は日本の既成概念と言っても過言ではない。
筆者は東日本出身であるため、日常的にお好み焼きを食べるという習慣はないが、それでも家でお好み焼きを食べるときは必ず「オタフクソース」を購入することにしている。一度で使い切れず冷蔵庫に放置されることも多いが、それはご愛嬌だ。
それくらいお好み焼き=オタフクソースの構図を成り立たせているのがオタフクホールディングス（以下オタフク）である。
実は日本の外食産業において、お好み焼きの市場は以外と大きく2,000億円前後と言われている。全国至るところで店を発見できるラーメン店の市場規模が6,000億円程度であるから、存在感の割にその規模の大きさに驚かれる方も多いことだろう。
ソース市場全体は、昨今の健康志向によるフライなどカロリーが高いものを消費者が敬遠したり、汎用性が少ないため、ここ10年で10％縮小している。しかし、オタフクは元気だ。平成26年度も過去最高売上の224億円を計上している。
一見斜陽産業に思えるソース市場で、お好み焼き用ソース一本で業績を伸ばし続けるオタフクのユニークな取り組みを本稿では取り上げたい。
オタフクのユニークな取り組みを紹介
お好み焼き課の設置※１
いわゆる本社マーケティング部に「お好み焼き課」というユニークな課を設置している。毎月10日を「お好み焼きの日」と銘打った啓蒙活動を繰り広げたり、月に1回は社員全員で必ずお好み焼きを食べる日を設定している。また全国各地の量販店で「お好み焼教室」を行脚するエバンジェリスト（伝道者）がおり、消費者へ様々なお好み焼きの食べ方を伝授し、消費の裾の尾を広げようとしている。
社員がお好み焼きのプロ
社員がお好み焼きを愛して、お好み焼きのプロにならなければ、オタフクソースを語る資格なしという徹底した姿勢を貫いている。2006年から社内で「お好み焼士マイスター制度」という資格を導入し、年一回の筆記試験と実技試験によってレベル別にお好み焼きに対する習熟度を厳しく選考される。
新規出店のお手伝いはお手の物※2
お好み焼き店の新規出店を積極的に啓蒙し、全国7箇所で「お好み焼き・たこ焼き研修センター」を開設している。昨今、ラーメン店を開くために短期間で修行させてくれるラーメン店開業スクールが流行っているが、オタフクは同様の取り組みを長年行うことで、自社ソース消費の裾の尾を広げてきた。
ゆりかごから墓場まで 赤ちゃん用ソース！？※3
ソースは健康に悪いという概念を変えるために「1歳からのソース」シリーズを発売している。10種類以上の野菜や果物を刻み、添加物を加えず、塩分を抑えたソースなので、子供の料理にはむしろ積極的にオタフクソースを加えたほうがよい、という主張である。ソースを真正面から攻めず、子供にお好み焼きを食べてもらう体験を小さい頃から習慣化してもらう戦略と言える。
ニッチ文化を広め、結果市場を制する
オタフクのユニークな取り組みからは「お好み焼きというニッチな市場で誰の追随も許さない」ために「お好み焼きという文化を自社が世の中に広める」という確固たる姿勢が見える。
同じような例として健康機器大手のタニタが「健康機器」で圧倒的なシェアを取るために、健康という文化を広める活動を「タニタ食堂」を通じて啓蒙するといったものが挙げられる。
奇遇なことにオタフクソースも今年8月、社員の健康管理を目的とした社員食堂『◯キ（まるき）食堂』をオープンした。精算の際、食器の底に付いたICチップで摂取カロリー・たんぱく質・脂質の三大栄養素が社員のパソコンに転送される仕組みである。
自社の社員が健康である=オタフクソースは健康によいソースというブランディング戦略の一環だ。
一度決めたニッチな業界の深堀りによって圧倒的なシェアを得て、企業経営を効率化する良いお手本と言えよう。
※1オタフクソース「お好み焼き課ブログ」
http://otafuku.weblogs.jp/
※2オタフクソース「お好み焼き店開業研修」
http://www.otafuku.co.jp/laboratory/training/
※3オタフクソース「1歳からのシリーズママの愛情広場」
http://www.otafuku.co.jp/product/1old/lineup/index.html