ギリシャ政府は国民投票の結果を受けて、EUから提示された緊縮策を受け入れる可能性が非常に低くなりました。そのためギリシャ国内の金融機関は喧々諤々となっています。報道機関が伝えるように預金封鎖が起きる可能性も否めません。過去に預金封鎖が起こった事例を日本、海外含めて提示します。普段の生活から節約を心がけてギリシャのニュースを注視しましょう。
ギリシャで預金封鎖の可能性が高まっている
ギリシャで金融支援と引き換えに、欧州連合(以下:EU)の財政再建策(いわゆる緊縮財政再建策)を受け入れるか否かを問う国民投票が、7月5日(日)に行われました。
結果は現首相であるチプラス氏の思惑通り、反対が60%を大幅に超える結果となりました。
ギリシャ政府がEUの緊縮策を受け入れることは殆ど考えられず、ギリシャ国内の金融機関は喧々諤々(けんけんがくがく)となっています。
この状態をフィナンシャル・タイムズ誌は“Greek banks prepare plan to raid deposits to avert collapse”(ギリシャの銀行は倒産を避けるために預金を乗っ取る計画を立てている)と報じました。
記事では、
- 8,000ユーロ(約107万円)以上の資産を持つ人について、8,000ユーロを超える部分の30%を徴収する計画がある
- 預金者に対して銀行が6日まで1日60ユーロ約8,000円の出金制限をかけている
とギリシャ国内の金融動向を伝えています。
ギリシャのチプラス首相は「年金や預金は保障されている」と必死に訴えていますが、欧州委員会との交渉がうまく行かなければ、預金封鎖が行われる可能性が高まります。
日本でも約70年前に起こった預金封鎖
預金封鎖とは、預金者に対して金融機関からの預金引き出しに、一定の制限を加える措置のことです。
預金封鎖には、政府主導の場合、金融機関が主導で行う場合の2パターンがありますが、本稿では政府が預金封鎖を行った過去の例について触れたいと思います。
過去には国家主導で、以下のような預金封鎖が行われました。
- 1933年3月:アメリカ合衆国:世界大恐慌後の金融危機に政府が介入し、銀行を一週間休ませ預金封鎖。その間に約2,500の銀行が統廃合した。
- 1990年3月:ブラジル:不況と5,000%に及ぶハイパーインフレを抑制する目的で金融機関の停止と預貯金の移動禁止措置が行われた。いわゆる「コロールプラン」と呼ばれる。
- 2001年12月:アルゼンチン:国家のデフォルトに伴い銀行から引き出せる預金を週間250ドルに制限した。
- 2002年7月:ウルグアイ:アルゼンチンのデフォルトに引きづられて、国内金融機関の資本準備金が大幅に毀損したため預金封鎖を実施した。
- 2013年3月:キプロス:ギリシャの金融危機の巻き添えを喰らい、国内金融機関の資本準備金が大幅に毀損したため預金封鎖を実施した。
このように国家の金融危機やデフォルトは、国民の財産に否応なく大きな影響を与えます。
過去には日本でも預金封鎖が行われました。
第二次世界大戦後の日本では、荒廃した国土を復旧させる物資が不足し、外地から復員してくる大量の兵士・民間人受け入れもあり生活必需品が不足する、などの要因によりハイパーインフレーションが生じていました。
一方で日本政府は、戦争の費用を国債の発行によってまかなっていましたが、その費用は当時の貨幣価値で1,000億円以上(現在の価値に換算すると100兆円以上)にのぼり、戦争に負けたことで返すアテもありません。
貸したのは今と同じで大半が日本国民でした。
そこで日本政府はなんとか借金を減らすために、まずは円を旧円から新円に切り替えて、旧円の貨幣価値をゼロにしました。
戦争国債に投資した資金を返してほしい人達が、慌てて国債を旧円建てから新円建ての国債に切り替えようとしたその時、当時の幣原(しではら)内閣は2回の預金封鎖を行いました。
銀行から完全に預金の引き出しができなかったわけではありませんが、上記の各国事例にもあるように、日本政府は預金者に対して引き出せる預金額の制限を課したり、給与の一部を強制的に預金させるなどの措置を行いました。
段階的な預金封鎖により、日本政府は戦争で作った借金をほぼ棒引きしました。
通常であれば大規模な反乱が起きそうな出来事ですが、この時に大混乱は起きませんでした。
メインターゲットとなっていたのが、「財閥企業」の経営者層など、戦前の日本を引っ張ってきた富裕層達だったからです。
財閥企業を支配していた富裕層は大量の国債を購入していましたし、ギリシャ政府が画策していると言われる「富裕層」への預金税と同じく、一定金額以上の預金から資産を徴収されました。
折しも1948年には後に朝鮮戦争の火種となる、大韓民国・北朝鮮民主主義共和国が建国されて、極東の緊張が高まりました。
軍事物資が極東で大量に必要となり、日本は資本主義国側の工場となったことで、奇跡的に多くの企業が息を吹き返します。
これらの理由から日本政府は大波乱に飲み込まれることなく、戦後経済の立て直しを預金封鎖と共に行えたのです。
日本は預金封鎖をソフトランディングでクリアし、その後に著しい経済発展を果たした数少ない国の1つです。
多くの場合、預金封鎖を行わなければならない程の金融危機やデフォルトが生じた国では、その後に多数の企業倒産や失業者問題を抱えることとなります。
ヨーロッパと日本で預金封鎖は起きるのか?
ヨーロッパ各国は大量のギリシャ国債を抱えているため、もし今後のギリシャとの金融支援交渉が破綻すれば大損することになります。
それでもドイツやフランス、辛うじてイギリスなど先進国はなんとか持ちこたえることでしょう。
心配なのはギリシャと同じように多額の借金を抱えるポルトガル、イタリア、スペイン、アイルランド 等の国へ、金融危機が飛び火することです。
ギリシャを入れていわゆる「ピーグス(英:PIIGS:豚の意)」と呼ばれる国は、財政が脆弱なためEU・IMF・ECBにおんぶにだっこ状態であり、これらの国がドミノ倒しで倒れないことを祈るばかりです。
それでは私達が住むこの国、日本はいかがでしょうか?
日本は先進国中で、ダントツトップの借金大国です。
GDP対比の政府総債務残高は、ギリシャが176%のであるのに対して、日本は実に246%に到達します。
しかしその借金の中身はギリシャの債権者が対外的なのに対して、日本の総債務残高のうち90%以上を国内金融機関が有している点で、性格が全く異なります。
従って経済危機が起こるからといって、預金封鎖がすぐに行われることは非常に考えにくいです。
ただし預金封鎖の口実となる制度準備は、着々と進められています。
その1つがマイナンバー(国民総背番号)制度です。
この制度は全ての国民に番号を付与することで、国民の資産全てを国が把握することに寄与すると考える向きもあります。
今はまず、ギリシャで起こることを対岸の火事と考えず、国家がデフォルトの危機に立った時に、国民の生活がどう変化するかをしっかり目に焼き付けておくべきでしょう。
そして普段の生活・ビジネスにおいて、節約することや効率化を図ることを意識するようにしたいものです。