シンガポールのリー・クアンユー元首相が亡くなって2ヶ月が経った。シンガポールは国民の大半と言える76.7%を華人が占める国である。中国本土の華人がマナーの悪さを指摘される一方、シンガポールに住む華人は厳しい規律の元で生活を送っている。理由はリー・クアンユーが国民に「理性的な国家作り」を訴え続けたことにある。
リー・クアンユーの葬儀に各国トップが参列
3月23日死去した、シンガポールのリー・クアンユー元首相について、先日リー・クアンユーが節約を国民へ習慣化させた貯蓄制度をご紹介した。
リー・クアンユーの強力なリーダーシップのもと、シンガポールの経済力は大幅にアップした。
彼の国葬には、韓国、インド、オーストラリアなど10カ国以上の首脳を始め、そうそうたるメンバーが参列した。日本からも安倍首相が予算委員会の大詰めを迎えている時間を縫い、滞在わずか6時間という強行スケジュールで出席した。
一国の元首相の葬儀としては異例の事態であり、シンガポールという国の国際的地位の高さとリー・クアンユーの影響力を示すものである。
同じ華人でもなぜこれほどマナーが違うか?
シンガポールは、国民の大半と言える76.7%を華人が占める国である。
つまり彼らは、日本を訪れインバウンド消費を生み出してくれる、中国の”華人”と同じ民族である。
中国は今や世界経済の中心的存在であり、日本のGDPを超える世界第二位の経済大国だ。中国で生まれたお金を、世界中の観光地で循環させてくれることにメリットがあることは確かだ。
ただし、中国本土の人に我々の大半が抱いている印象は、ところかまわずつばを吐く、ゴミをポイ捨てする、立ち入り禁止区域におかまいなしに入って写真撮影などキリがない。中国当局もマナーが悪いのを認め、ついに教育・指導を行い始めたが一向に変わらないのが現状だ。
話をシンガポールに戻そう。
中国本土の華人のマナーや国民性は、先述のとおり決して良いとは言えないが、シンガポール国内のメインストリートには、タバコもゴミも捨てられておらず、美観を保っている。
何故ならシンガポールでは、チューインガムは販売も食べるのも禁止、家から外へ物を投げ捨てたら家を強制的に取り上げる、トイレ使用後水を流さないと罰金$1,000(約8万円)など街の美観に関わる厳しい罰則があるのだ。
これらの罰則を作ったリー・クアンユーに対して当初は、あまりの厳しさに各国から心配の声が上がった。例えば、イギリスのハロルド・ウィルソン政権で高等弁務官を務めていたジョン・ロブ氏からは、国家としての資質について懸念されたことがあった。
それに対しリー・クアンユーは「シンガポールについて心配する必要はありません。われわれは、どんな苦境に置かれたとしても正気でいられる理性的な者たちです。われわれは、政治というチェス盤の上でどんな行動を起こす際も、可能な結果を全て導き出します」と国家運営に関する自信を述べている。
リー・クアンユーは、規律ある国家で暮らすことを教育された”華人”であれば、国民性を高めた「理性的な国家づくり」ができると考えて、国民を教育したのだ。
リー・クアンユー亡き後も政策は踏襲される
シンガポールでは4月1日から、酒類に対する規制を強化し、PM10.30~AM7:00の夜間時間帯は、ホテル自室や指定のバーなどを除き、酒類販売及び飲酒を禁止する法律が制定された。国民だけではなく、外国人観光客なども対象となる。
飲酒を原因とする暴動や傷害事件数を減らし住民を守るという趣旨に対して、国民への電話アンケートでは8割の賛成が得られたという。
シンガポールは今もなお、理性的な政策を作り続けている。その根底にあるものは、間違いなく、リー・クアンユーの遺志である。