創業家が会社の支配権を握る同族会社の運営には、「現場の円滑な運営」と「公正な経営」に加えて、「割り切りが難しい創業家が円滑な状態であり続けるよう取りまとめる」ため、複雑な統治運営(ガバナンス)を高度な次元で行う必要が生じる。しかし往々にして同族会社には陥りがちなジレンマがある。代表的な4つのジレンマを提示していきたい。
同族会社の運営は高度な次元で行う必要あり
企業経営には、「現場の円滑な運営」と「公正な経営」が求められる。
規模が拡大し社会的な影響力が増せば、これらに加えて「社会的責任を果たすこと(CSR)」、「株主価値の訴求」を外部から追求されることになる。
創業家が会社の支配権を握る同族会社の運営は、これらに加えて「割り切りが難しい創業家が円滑な状態であり続ける」ための、より複雑統治運営(ガバナンス)を高度な次元で行うことが必要になる。
古くから続く財閥系企業の多くから創業家が手を引き、ホンダや任天堂も創業家の人間に会社を継がせないのも、これらの要因が大きく影響している。
しかも日本の社長年齢は毎年高齢化を続けており、「5人に1人が70代」、「平均年齢60.6歳」となっているにも関わらず、親から子への事業承継がうまく行っていないことが「同族企業の運営問題」に拍車をかけている。※1
それでは、同族会社の運営にあたりどのようなジレンマが生じやすいか、ケース別にみていこう。
同族会社が陥るジレンマ 4つのケース
1)間違った方向へ進むと修正しにくい
中小企業に多いケースだが、創業家の一族もしくは創業家のメンバーが、100%の株主もしくは、合計で支配権保有比率(2/3以上の保有割合)の株式を持った会社では、「支配株主=経営者」という図式が成立してしまうため、「所有と経営の分離」が成立しにくい。株主が経営者を本来チェックする機能が働かないので、経営者の独断で、間違った事業運営・投資活動に関する行動方針を実行した場合、会社は一気に傾きやすくなってしまう。
2)常識のない創業家の跡取りが支配権を持つ
直近の一番わかりやすい例が、大韓航空の「ナッツリターン」問題である。創業家2代目・趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長の長女である趙顕娥(チョ・ヒョンア)副社長が、客室乗務員のサービスを問題視して激高し、責任者を飛行機から降ろし遅延させた。この違法行為について、その後も娘が主導権を持って証拠隠滅が社内で組織的に行われ大きな問題となった。コンプライアンス(法令遵守)よりも、跡取りの意向がまかり通るヒエラルキーが同族会社には起きやすい。
3)企業を私物化してしまう
創業家の人間はとかく「会社のお金」と「自分のお金」の線引を、曖昧にしてしまいやすい。アンパンの「銀座木村家」で2012年に木村信義会長が銀座の豪遊代、麻雀の負けにより多額の借財を作り、毎月数百万円を会社から引き出し解任された問題や、大王製紙の創業家経営者である井川意高が2010年4月から2011年9月までのカジノ負債総額100億円を支払うために会社から不正に引き出し、刑事事件に展開したのも記憶に新しい。
4)不祥事や問題が起こるとイメージが失墜する
日本では、不祥事や問題が起こると「創業家が支配する会社」という事実が問題とは別にやり玉としてあげられてしまい、必要以上にイメージが失墜してしまうケースが生じやすい。印象深い事例として「西武鉄道」の不祥事事件があげられる。ヤミ献金疑惑、オーナー企業からの出資比率に関する問題により、会社運営から堤家が追放されると同時に、堤家の卑猥なプライベート情報や、親族間の派閥争いが加熱報道されてしまい、西武グループ全体のイメージが著しく失墜した。
上場している大塚家具を複合ジレンマが襲う
目下、親娘間で経営権が争われている大塚家具の株主総会が、3月27日(金)に開催される。
大塚家具には、難易度の高い試練が待ち受ける。
理由は、大塚家具が運営難易度の高い「同族会社」であると同時に、現役の上場企業でもあるからだ。
違法な不祥事こそ起きてはいないが、派閥争いが既にメディアへ明るみに出てしまい、企業としてのブランドには傷がついている。
更に大塚家の財産内訳は、ほとんどが「大塚家具」の株式であるが、対立する親子の株式保有比率はそれぞれ20%に満ちておらず、会社の支配権はどちらも握っていない。
大塚久美子社長、大塚勝久会長、どちらが経営権を握ったとしても、内部統制を急速に固めるとともに、業績を回復させるための具体的な行動を株主から求められるため、大塚家具は対内外で複合的なジレンマを有することになる。
それでは「創業家が支配する企業」は、本当にうまくいかないのだろうか?
うまくいっている企業は、どのように統治運営されているのだろうか?
シリーズの最終回で考察して行く。
参照元
※1 東京商工リサーチ「2014年全国社長の年齢調査」
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141002_01.html