行列のできる不動産屋さん・誠不動産が選択したカスタマーインティマシー戦略

企業分析

 インターネット革命の煽りを受けて、差別化が図りにくくなってきた職種の1つに街の不動産屋さんがあります。ところが、誠不動産という街の不動産屋さんは、「行列のできる零細不動産屋」さんとして、完全紹介制の仕事しか受けられないほど、顧客から熱烈な指示を受けています。その秘訣に迫ります。

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インターネットの影響で変革起きる不動産業界

 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 どの駅の周辺にも必ずある不動産屋さん。最近どうなんでしょうね?

 近年は、インターネットでの物件探しが当たり前となりましたし、また自分で検索するだけでなく、ライブチャットで気軽に相談できる「ietty(イエッティ)」のようなWebサイトやアプリが登場しています。

節約社長

 参考記事:ネットの背後にスタッフ8人が待機。「オンライン接客」が好評なイエッティのケース

 こうしたインターネット革命の影響を受けて、不動産業界もいろいろな点で変革を迫られていると思います。

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街の不動産屋さん「誠不動産」にお客さんが行列をなす理由

 さて、先日の日経ビジネスに掲載されていて目を引いたのが、「行列のできる零細不動産屋」さんの記事です。恵比寿に店舗を構える、その従業員2人の会社、「誠不動産」は、常時40人の新規顧客を抱えているのです。(最近は対応しきれないので「完全紹介制」にしているほど)

 不動産屋さんって、物件紹介と、候補物件の内見への同行、賃貸・購入契約手続きをやってくれるくらいで、どこもたいして違いはない、というのが私個人の経験からの印象です。あなたも同じ印象ではないでしょうか。

 ところが、誠不動産は、「ぜひ、おたくで契約したい」とお客さんが列をなしているという状況なのです。

 なぜ誠不動産にこだわるお客さんが多いでしょうか?

 それは契約後の手厚いサービスです。前述したように、一般的には不動産屋さんとのつながりは、契約が完了した時点で基本終了。それ以降はほとんど接点がありませんし、マンションなら、日々の問題は管理会社の担当になりますね。

 ところが、誠不動産は、契約に必要な公的書類の代理取得、契約後の公共料金手続き、インターネットの契約、引っ越し業者の手配など、不動産物件契約に関わる、もろもろめんどくさいことをほとんど無料で引き受けてくれるのです。

 しかも、契約者には、同社社長、鈴木氏の携帯電話番号が記載されたキーホルダーが渡され、様々なトラブルに巻き込まれたときは、鈴木氏に連絡すれば飛んできてくれます。

 例えば、隣室が深夜うるさくて眠れないとか、逆に自分に非がある問題を起こしてしまい、隣人からいやがらせを受ける、といったトラブルに対して、鈴木氏が交渉、仲裁してくれるというわけです。マンションの管理会社も、こうしたトラブルに対応してくれないわけではないですが、あまり頼りにならないのが実状です。

 隣人とのトラブルが起きると、場合によっては引っ越しを余儀なくされてしまうことも多いかと思いますが、誠不動産の鈴木社長がまるで「用心棒」のような頼もしい存在としていてくれる、というのは契約者にとっては大きな安心感を与えてくれるでしょう。

 なにせ、鈴木氏は元自衛隊員、その後はクラブの黒服も経験してますから、たいていのもめごとは解決してくれる胆力がある方のようです。

 誠不動産の契約者がどんな人たちかは明らかにされていませんが、おそらく一人暮らしの女性が多いんじゃないかと思います。最近はいろいろと物騒なことが起きますからね。

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誠不動産はカスタマーインティマシー戦略の体現者

 では、ここでちょっと経営戦略についての理論的な解説をちょこっとだけ。

 企業が選択すべき経営戦略には以下、3つの方向性があるという理論があります。

  • ・プロダクトリーダーシップ
  • ・カスタマーインティマシー
  • ・オペレーショナルエクセレンス

 プロダクトリーダーシップとは、卓越した製品を開発することで競争優位を確立する戦略。例えば、サイクロン式掃除機や、羽根のない扇風機などで知られるダイソンあたりはこれです。

 カスタマーインティマシーは、顧客との親密な関係性を形成することに注力する戦略。

 オペレーショナルエクセレンスは、大量生産や機械化などコストダウン、効率化を推進して、価格競争力を高めていく戦略。この戦略の典型は、マクドナルドです。

 誠不動産の戦略はもちろん「カスタマーインティマシー」ですね。徹底した顧客サービスでお客さんの手間を軽減し、かつ入居後の安心感を提供することで、大手不動産はおろか、他の多くの不動産との明確な違いを打ち出すことに成功しています。

 不動産紹介業は、紹介できる物件を専有的に抱えていることも多く、戦略らしい戦略はそもそも持っていることは少なかったと思われます。しかし、インターネットの浸透によりある種の「自由化」が進展し、競争は激化しています。

 厳しい競争環境において、誠不動産は「カスタマーインティマシー戦略」によって業績を伸ばしているのです。(後付けの解釈ではありますが・・・)

 さて、あなたの会社では、上記3つの戦略のどれを選択していますか、あるいはこれから選択すべきと考えますか?

節約社長
誠不動産HP *ホームページも気合が伝わるデザインですね(笑

企業分析
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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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