今、世界の先進国では「LGBT」がトレンドセッター(流行の仕掛け人)としてマーケットを牽引する。国内の「LGBT」推定人口はおよそ270万人とされ、潜在的な市場規模は6兆6000億円と「オタク市場」を凌駕する規模となっている。マーケティング戦略も「個人、自己の価値」へと視点が転換しており、1つの個性としてビジネスで当然受け入れられるべきものだ。
LGBTがトレンドセッターとなりつつある
今、世界の先進国では「LGBT」がトレンドセッター(流行の仕掛け人)としてマーケットを牽引する。
「LGBT」とは、レズビアン”lesbian”、ゲイ”Gay”、バイセクシュアル”bisexual”、トランスジェンダー”Transgender” の各スペルの頭文字から取った略称のことだ。
LGBT、つまりセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の著名人としては、アップル社CEOのティム・クック、歌手のレディー・ガガ、司会者のエレン・デジェネレス、Facebookの設立者クリス・ヒューズ、日本でもマツコ・デラックス、美輪明宏やミッツ・マングローブ、タレントの壇蜜などがあげられる。
日本のLGBT市場はオタク市場より大きい
アメリカの「LGBT」人口は推定1500万人とされ、その市場規模は77兆円にものぼる。世界全体で見れば「LGBT」のマーケットは100兆円に及ぶと言われている。
すでに米国の大手企業、各メディアはこぞって「LGBT」市場に向けたマーケティング戦略を展開して高い成果を上げている。もちろんその中には日系のトヨタ、スバル、東芝などの名だたる企業も含まれている。
「LGBT」とセクシャル・マジョリティ(異性愛者)を消費者として比べると特性は大きく異なる。※1
- (1) 高学歴の管理職、クリエイティブな職種が多く、平均年収も2倍以上になる
- (2) 新商品や新サービスに対する意識、購入意欲が高く、買い物の頻度は一般の3〜4倍、ネットショッピングは2倍以上、高級車の購入比率も2倍以上になる
- (3) インターネットサイト、ソーシャルネットワーク、eコマースの利用率が高い
一方、日本の「LGBT」はどうであろうか。
国内の「LGBT」推定人口はおよそ270万人とされ、これはイギリスに匹敵する数だ。潜在的な市場規模は6兆6000億円と試算され、一般の市民権を得られた「オタク市場」2900億円のおよそ23倍にもなる。※1
しかし残念なことに未だ日本では「LGBT」が普通の個性として周囲に認められ、日々の積極的な行動をとれるような状況にはなっていないようだ。
背景には社会的な偏見も根強くあるのだろう。「LGBT」先進国のアメリカと比較した場合、日本の「LGBT」は学歴や職業、年収、他人との関係構築などに少なからず問題を抱えているように伺える。その結果が購買意欲を大きく左右することは歴然である。
だが一部の大手企業では「LGBT」への対応方針を定め、CSR(企業の社会的責任)として取り組み始めている。
また、ニュースなどで報道されていたように、渋谷区では同性カップルのために「パートナーシップ証明書」を発行する条例を区議会で検討している。
マーケティングも個々の価値を重視する時代
ここ数年、マーケティング戦略の流れも急速に変化した。従来のマーケティングミックスで唱えられていた「売り手と買い手の共生」から「個人、自己の価値」へと視点が転換している。流れをまとめると以下の表になる。
1960年〜 ”4P” | 1993年〜 ”4C” | 2010年〜 ”4C” | 2015年〜 ”?” | 売り手側の視点 | 買い手側の視点 | 双方共生の視点 | 自己価値の視点 |
---|---|---|---|
Product (製品) |
Customer Value (顧客価値) |
Commodity (価値の共創) |
|
Price (価格) |
Cost (顧客にとっての経費) |
Cost (社会にとっての経費) |
|
Place (流通) |
Convenience (顧客の利便性) |
Channel (流通の流れ) | |
Promotion (販促) |
Communication (顧客とのつながり) |
Communication (共生するつながり) |
「年齢」「性別」「国籍」「地域」「職業」「収入」「家族構成」「趣味」・・・など、これまで通りの顧客セグメントでは時代に追いつかなくなるかもしれない。
日本においても、自己価値の視点での商品やサービスが求められているとすれば、米国の先例のように「個人の嗜好(Customer preference)」は当然無視できなくなる。
LGBTは個性でありセグメントすべきでない
「LGBT」を一つの個性として認めれば、もはや彼らを”LGBT”という区分で語ること自体がナンセンスだろう。間違ってもLGBTのための商品やサービスは訴求しないことだ。彼らの怒りを買うだけの結果になる。
個人の嗜好、つまり個性に寄り添う戦略こそが、市場拡大のためのキーファクターだ。
LGBTが「流行に敏感な人たちを指す呼び名」に変わる日が来るのかもしれない。
参照元
※1 電通総研「LGBT調査2012」
http://dii.dentsu.jp/project/other/pdf/120701.pdf