数年前まで牛丼チェーン店3社が、がっぷり四つの不毛な価格戦争を行っていたのは、私達の記憶にも新しいところです。しかし、3社の一角・松屋は、一足先に価格戦争から抜け出し、業績を立て直すことに成功しました。なぜ?その要因を解説します。
牛丼チェーン3社で松屋は頭一つ抜ける業績
牛丼チェーン店として知られる松屋フーズ(以下、松屋)の業績が好調です。
1月に発表された、2017年度第三四半期の売上高は664.1億円の6.4%増、目を見張るのは営業利益が37.9億円の46.8%増となり、営業利益率が6.4%の水準にあります。
この営業利益率はライバル他社の直近成績、吉野家(0.9%)すき家(3.1%)と比較しても高水準にあります。
もっとも、吉野家ははなまるうどんやVolksなど、すき家はなか卯やスーパーマーケット各社の小売事業などを、M&Aにより手に入れており、企業全体としての売上規模は2社が上回りますが、財務体質は松屋が上です。
これらの要因を背景に、松屋の株価は年初来高値を先週末更新しています。
松屋が牛丼戦争から一足先に抜け業績の建て直しに成功したワケ
松屋の特筆すべき点はこれだけに留まりません。
2016年に、売上高・客数・客単価の3つの分野で、昨年対比100%超えを既存店で毎月達成したのは松屋だけでした。※
つまり、松屋はライバル他社より先に、牛丼業界で起きていた不毛な値下げ競争から抜け出し、値上げに成功していたのです。
これを支える背景の一つは、「松屋」が豊富で魅力的なメニューラインナップを、効率的に展開できていることにあります。
吉野家やすき家は、あくまでも牛丼をメインとしたメニューラインナップで横展開を行うのに対して、松屋は牛丼を食うようなメニューの縦展開を行っています。
たとえば、他社が季節ごとに提供する新メニューは、牛丼や豚丼+α(トッピングを足す、タレを加える)といった、従来の丼物の領域で開発されることが多いのに対して、松屋が季節ごとに提供する新メニューは、プルコギ定食、チキングリル定食(シャリアピンソースを添えて)など、牛丼や豚丼に関係なく縦に展開します。
特に昨年は、縦展開の中で20種類以上の新メニューを発売し、特にごろごろチキンカレーという大ヒット商品を生み出すなど、牛丼よりも単価が取れるメニューにより、消費者の支持を得ています。
ごろごろチキンカレーは関東圏の一部店舗限定で2017年3月に一週間限定で復活
つまり、松屋ブランドは既に「牛丼チェーン店」から、「牛丼も楽しめる定食チェーン店」にその業態を変容することに成功しているのです。
従って、松屋は牛丼というカテゴリのみで、価格競争に巻き込まれにくくなっています。
更に、「松屋」という一つの業態で様々なメニューカテゴリにチャレンジできているため、人モノ金のリソースを集中させ、採用や新メニュー調理教育にかかる費用も効率よく削減できています。※2
これが松屋の好調な業績を支える背景となっています。
松屋の強みは顧客価値の重視から生まれたもの
松屋の豊富で尖ったメニュー展開は、自ら進んで「牛丼」という製品価値から脱却し、「牛丼も楽しめる定食チェーン店」という顧客価値を重視した結果として生まれたものです。
1月からは、ライスを湯豆腐に変更可能な、一見疑問が付くサービスを開始し、大きな話題を呼びました。
この企画は人気が無かったのでしょうか?松屋は1ヶ月もしないうちに同企画を終了させています。
しかし、このような子供じみて、いたずらにも似た取組すら、チャレンジしている、企業として元気な証拠と言えるでしょう。
とんかつ業態の「松のや」「松乃家」も2017年3月時点で115店舗へ増え、松屋を支える屋台骨になりはじめていることから、同社の好調な業績維持はしばらく続きそうです。
※松屋フーズ月次報告
https://www.matsuyafoods.co.jp/ir2/monthly.html
※2松屋フーズ 2017年3月期第2四半期 決算説明資料
https://www.matsuyafoods.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/161104_hosoku.pdf