「スッと」「キューッと」「パーンと」これらは、野球界の大スター・長嶋茂雄さんが、指導時に選手たちを教える際の一場面で使った、オノマトペという擬声語による表現です。このような感覚的表現が人を効果的に動かすのはなぜか?その理由をご説明しましょう。オノマトペはビジネスの現場でも大いに役立ちます。
「スッと」「キューッと」「パーンと」長嶋茂雄の教え
「球がこうスッと来るだろ」「そこをグゥーッと構えて腰をガッとする」「あとはバッといってガーンと打つんだ」(少年野球教室にて指導時)
「ボールがキューッとくるだろ」「そしてググッとなったらウンッっと溜めてパッ」(元ニューヨークヤンキース・松井選手指導時)
「ピシっとして、パーンと打つ」 (現阪神タイガース・福留選手指導時)
野球ファンの方ならば、これが誰による指導か一瞬でご理解いただけることでしょう。
これらはいずれも、昭和の日本が産んだ野球界の大スター・長嶋茂雄さん(以下、長嶋さん)が、始動時に選手たちを教える際の一場面です。
- 「スッと」
- 「キューッと」
- 「パーンと」
なんとも感覚的な表現ですが、松井秀喜選手は、自らのバッティングレベルを飛躍的にあげたのが、長嶋さんの指導によるものと公言しています。
お世辞だろと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に長嶋さんが指導時に使っていた表現は、人を効果的に動かす上で、とても理にかなったものなのです。
オノマトペで「言葉の体温」をあげることの効果
「スッと」「キューッと」「パーンと」これらはいずれも、ある状態をそれらしい音で表現する擬声語であり、フランス語に訳すと「オノマトペ(onomatopée)」と呼ばれるという副詞に分類されます。
効果的な理由
なぜ、これらの言葉が人を動かす上で理にかなったものかと言うと、私達が他者とコミュニケーションを取る際は大抵、事実を伝えたり、説明する際の言葉が、理屈によって構成されがちです。
しかし、自分が教えたことを他者に実行してもらいたい、自分の言ったことを再現してもらいたいと思う際は、理屈の部分のみならず、ニュアンスまで理解してもらう必要があります。
ニュアンスとは別の表現をすれば「言葉の温度」と言うこともできます。
自分の伝える理屈に温度が加わることで、初めて相手は行動してくれるのです。
オノマトペが人を動かす上で効果的な理由は、一番動かしにくい類(たぐい)の人種、小さな子どもたちを例にあげれば、容易に想像が付くでしょう。
具体例
たとえば、子供を寝かしつけたい時に、読者の皆様はどんなふうに子どもたちに伝え、彼らを行動に移させますか?
「9時に寝ないと明日の朝また寝坊して、ママに怒られちゃうよ」と理屈を伝えたところで、子供はあまり言うことを聴いてくれないことでしょう。
対して、「9時に寝ないと、9時を過ぎた途端に、おばけがブワーッと現れて、寝れなくなっちゃうよ。」と伝えたらどうでしょうか?
オノマトペはビジネスの現場でも有効活用可能
大きくなるにつれて、経験を重ねることで人は多くの理屈を学びますが、本質的に子供の頃と同じで感情を揺り動かす表現に敏感です。
たとえば、ゴルフのスイング練習では、「チャー・シュー・メン」という擬声語の組み合わせを使うと、実際に身体を動かすタイミングが覚えやすくなりますよね。
デートに意中の女性を誘った時、「予約してくれてありがとう。楽しみにしてます。」と返信を返されるより、「予約してくれてありがとう!凄く嬉しいです☆彡今からワクワクしてます。」と返されたほうが、なんとなく当日に向けて気合が入りませんか?
「ワクワク」というオノマトペが効果的に作用しているのです。
オノマトペはこのように、言葉に温度を与えることで、相手の感情を動かし、更には行動を起こさせる上で効果的な表現方法であり、ビジネスの現場でも時と場合を選べば非常に効果的です。
部下が取引先との交渉で難題にぶつかっている時に、「大丈夫だよ。俺が後は始末しておくからさ。任せて。」と言われた時と、「大丈夫だよ。俺が後はバシッと始末しておくからさ。バッチリ任せて。」と言われた時、どちらが心強く感じるでしょうか?
おそらく部下は、後者のほうが心強く感じるでしょう。
「バシッと(スピード感)」や「バッチリ(信頼性)」というオノマトペのお陰で、言葉の温度が高くなっているからです。
そういう意味で、オノマトペは時と場合を選んで使うべきです。
そのくらい、日本語におけるオノマトペとは、人を効果的に動かす表現方法なのです。
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