法人の取締役であっても、労働者としての身分性が強い人は、労働者としての身分性が強い「兼務役員」とみなされ、雇用保険の適用を受けたり、助成金申請の頭数として数えることができます。しかし、兼務役員とみなされるには、1)労働時間が管理され、2)報酬では無く賃金が支払われている、という2つの条件を満たす必要があります。詳細を解説いたします。
取締役でも雇用保険に加入可能なのが兼務役員
法人の取締役であっても、労働者としての身分性が強い場合、雇用保険に加入することが可能です。
この場合、役員は労働者としての身分性が強い「兼務役員」とみなされます。
しかし、具体的にどのようなポイントを満たせば「労働者としての身分性が強い」と判断されるのでしょうか?
本稿は、この点をご説明したいと思います。
兼務役員とみなされないと何がまずいのか?
先述の通り、法人の取締役であっても労働者性の身分が強い場合には、ハローワークで兼務役員の証明書をもらうことによって、雇用保険の被保険者となることができます。
これは逆に言えば、労働者性としての身分が強くなければ、雇用保険には加入できないことになります。
兼務役員の証明書を発行してもらえない場合には、助成金申請にも影響が出るでしょう。
取締役が、労働者とみなされるか否かには幾つかのポイントがありますが、最も大きなポイントは、
- 労働時間が管理されている
- 報酬ではなく賃金が支払われている
という2つの条件を満たしていることです。
兼務役員の条件1:労働時間が管理されている
1つめの条件である、労働時間が管理されていることですが、そもそも労働者の定義は「使用者の支配下に置かれている」ことです。
「使用者の支配下」には、いろいろな意味が含まれていますが、その中に労働時間の管理があります。
また、使用者には、労働者の労働時間を管理する義務がありますから、労働者であるということは、何らかの労働時間を管理する帳票、つまり出勤簿やタイムカードを付けている必要があります。
取締役は委任契約を会社と締結しており、労働契約とは性質が違うため、使用者に労働時間を管理されることはありません。
出勤簿やタイムカードいった労働時間を管理する帳票がないということは、労働時間を管理されていない「労働者性が無い」立場とみなされてしまいます。
従って、取締役を労働者として取扱う場合には、必ず出勤簿又はタイムカードにより、労働時間の管理が行われている必要があります。
兼務役員の条件2:賃金が支払われている
次の条件は、「賃金」の支払状況が兼務役員とみなされることです。
「賃金」は本来、労働の対価として支払われるものです。
労働契約は労働者が労働を提供し、その対価として使用者がその対価を支払う契約です。
対して、取締役は会社との間で委任契約を締結するため、受取る対価は賃金ではなく役員報酬として支給されます。
従って、取締役の労働者性身分が強いことを証明するためには、受取る対価が賃金である必要があります。
しかしながら、受取る対価が役員報酬か賃金かを区別するのは難しいことです。
お金に区別の色が付いているわけではないからです。
賃金台帳や給与明細の確認を取ったところで、支払う額が変わるわけではないので、明細項目は自由に作れてしまいます。
本来は、株主総会で取締役の報酬の関する決議がなされ、それに基づいて報酬が支払われるのですが、中小企業の場合には正式な手続きを踏まず、報酬が支払われているケースも実際にはあります。
強引に兼務役員のポストを作っても意味が無い
ところが、このような状況では決算処理の段階で1つ重要な問題が生じます。
ハローワークで兼務役員の証明を発行してもらうには、決算書類を添付する必要があります。
もし、取締役の報酬が賃金台帳上では賃金として支払われていても、決算上で役員報酬として処理されていると“つじつま”が合わなくなるのです。
このような場合には、決算書類が優先されるため、内容によっては労働者としてみなされないことがあります。
実際、私自身もクライアントとの仕事で、同じケースに何度か遭遇しています。
もちろん、兼務役員と会社が考えている人物が役員報酬をもらっても、それ自体は法律的に問題がありません。
しかし、その役員について雇用保険をつけたり、助成金の頭数とすることはできなくなります。
兼務役員はあくまで、労働者性が強いためにその結果として、賃金として支払われる対象となる人材です。
助成金の関係で、どうしても取締役を被保険者にしたいから、賃金で決算処理するのは間違いと言えます。
決算処理の段階などでは、税理士など会計の専門家と相談しながら、兼務役員の人選について判断しましょう。