経営者ならば誰しも、従業員に仕事から満足感を得てほしいと願います。しかし、従業員が仕事で満足を得るためには、職場の人間関係が良好である必要があります。これを踏まえ、近年ではビッグデータの収集とAIの活用により、チームの活性化や人間関係の円滑化につながる有効なアドバイスを与える新技術が開発されています。日立製作所の取り組みをご紹介します。
どうせ働くならば喜びを感じ楽しくありたい
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
今回は、職場における「幸せ」をテーマとして取り上げたいと思います。
さて、仕事=「働くこと」は第一に、生活の糧、すなわち現金収入を得ることが目的です。
ジャングルに住む未開の民族のように、今も狩猟採集、農耕生活を続けているのなら、いわゆる「労働」はする必要ありませんね。しかし、貨幣社会に生きる私たちは、働かないと生きていくのが困難です。
したがって、仕事とは 「しなければならないもの」 です。
このことは社会人にとっては言うまでもないことですが、子供のうちはなかなかピンとこないようです。私の長男も昔、「なんで働かなければわからない」と平然と言ったことがありました・・・
話がそれました。本題に戻ります。
「仕事とはしなければならないもの」という現実を受け入れるしかないとして、1日の最低でも3分の1、残業が多い方だと、1日24時間の半分近くを仕事に費やしているでしょう。
二度とない人生の大切な時間の、かなりの部分を仕事に振り向けざるを得ないのが私たち、労働者です。
このかけがえのない働いている時間を「つまらない」「つらい」などとネガティブな気持ちで過ごすのは実にもったいないのではないでしょうか。
まさに「人生という時間の浪費」と言えるでしょう。
どうせ働かなければならないのなら、できるだけ楽しく、ワクワクして仕事に取り組みたいし、できれば「働く喜び」や「働く幸せ」をたまにでも感じたいものです。
職場の人間関係が良好なら仕事は楽しくなる
近年、お客様の満足度を高めるためには、お客様に奉仕する従業員が仕事に満足していなければならない、という因果関係がより強く認識されるようになり、「従業員満足」という概念が注目されています。
そして、この従業員満足における究極の理想が、従業員が働く幸せを感じていること、すなわち「従業員幸福」(カスタマーハピネス)です。
では、「従業員幸福」はどのようにすれば実現できるのでしょうか?
もちろん、単純な答えははなく、福利厚生制度の充実、評価報酬制度の公明正大化をはじめ、様々な施策を展開する必要があります。
ただ、最も重要なのは「職場の人間関係」が良好であること、だと私は思っています。
アドラー心理学では、「人間の悩みは全て人間関係の悩みである」と喝破しています。
たとえ、自分の担当職務が自分の適性や志向に合致していて、大いに自分の能力を発揮でき、仕事自体が楽しいものと感じられたとしても、上司や同僚との関係がぎくしゃくしていたら、職場での毎日は決して幸せなものではないでしょう。
逆に、仕事自体はそれほど自分にとって楽しいものではない(現実問題として、ほとんどの仕事自体が楽しいことはめったにないですね)としても、職場での人間関係が良好であれば、ほのかな幸福感があるのではないでしょうか。
日立製作所によるビッグデータを用いたチームの生産性を向上させる取り組み
さて、職場に限らず、人間関係の良し悪しは、
「他者とのコミュニケーションの質や量」
で決まると言えますが、どのようなコミュニケーションが職場での幸福感、ひいてはやりがいを高めるかを実証するため、「ウエアラブルセンサー」を職場で身に着けてもらい、人の他者との接触状況や活動状況をビッグデータとして収集し、分析する取り組みが行われています。
日本では日立製作所中央研究所の取り組みが有名です。同研究所では、首から下げる「名札型ウェアラブルセンサー」を実験対象者に渡し、身体の動きを加速度センサーで常時測定、記録しています。
このウェアラブルセンサーを用いた実験結果からは、実に興味深いことがいろいろとわかってきています。
例えば、電話でのセールス活動を行うアウトバウンド型のコールセンターの部署では、休憩時間中の活発な動きが個人ではなくグループ全体として起きているとき、いわば「集団として乗っている」状態となり、セールスの成約率が向上することがわかったのです。
これはわかりやすく説明すると、休憩時間中の同僚などとの雑談が、ほどよい気分転換や元気回復の機会となり、仕事への取り組み姿勢を向上させていると考えられます。
この実験では、コールセンターのオペレーターの休憩時間を従来はずらしてとっていたところを(話の合いやすい)同世代のチームで一斉に休憩に入れるようにして、同僚との会話の時間を増やしたところ、休憩中の活気が10%向上、成約率も13%アップするという成果につながっています。
ビッグデータとAIが従業員幸福を実現させる日は近い
日立製作所は、日立グループの社員などの協力も得てウエアラブルセンサーによる研究を継続しており、現在では、人と組織の活性度や幸福感と生産性との明確な相関が実証できているとのこと。
今年2016年6月には、人工知能を活用し、個人の行動データをもとに、働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを自動作成する新技術を開発したことを発表しています。
具体的なアドバイス例としては、「Aさんと短い会話をしましょう」、「Bさんと話すなら午前中がおすすめです」「本日は早めに帰宅しましょう」といったものになるようです。
こうしたアドバイスは、職場での人間関係、コミュニケーションを適切に調整し、また働きすぎによる燃え尽きなども防ぐ効果も期待できますね。
ビッグデータの収集とAI技術を活用することで、様々な職場において、効果的に「従業員幸福」が実現できる日もそう遠くないかもしれません。