個人事業や小さな会社の場合、自宅を事務所に使っている方が多いはずです。
ここに係る費用は経費として支出することが可能ですが、事業を株式会社などにすると、社長の自宅を事務所にしている場合、代表である社長に対して家賃を払うことが出来るようになります。
自宅を事務所として使用する場合の経費振り分けは個人と法人で変わる
個人事業や小さな会社の場合、代表取締役の自宅を事務所として使っている人も多いのではないでしょうか?
お店や事務所を借りるには、それなりの費用が掛かりますし、最近はネットを活用したビジネスも多いため、来店型のビジネスでなければ、敢えてお店を構える必要もありません。
お店や事務所を借りているのであれば、家賃などの支払いは経費にすることが出来ます。
会社の場合と個人事業の場合では、ちょっと考え方が変わってきますので、以下解説してまいります。
会社であれば代表取締役社長に家賃を払うことが出来る
事業を株式会社などにして、社長の自宅を事務所にしている場合、代表である社長に対して家賃を払うことが出来ます。
つまり、法人の場合は、社長に対してお給料(役員報酬)以外にも、家賃としてお金を還元することが出来るのです。
個人事業の場合には、たとえ自宅を事務所として使っていても、自分自身に家賃を払うことは出来ません。
仮に出来たとして、支払う家賃が5万円であっても、個人として受け取る家賃が5万円であれば、
- 受け取る家賃(=収入は個人):+50,000円
- 支払う家賃(=経費も個人):-50,000円
ですから、結局プラスマイナスはゼロとなり、意味がありません。
それに対して会社の場合には
- 受け取る家賃(=収入は個人):+50,000円
- 支払う家賃(=経費は会社): -50,000円
となります。
パッと見た感じだと、同じように思えるかもしれませんが、個人と会社は全く別物。
あえて家賃を支払うことで得られるメリットがあるのです。
なぜ、社長が会社から家賃を取るとオトクになるのか、3つの視点から考えていきたいと思います。
代表取締役社長個人の所得税・住民税で得られるメリット
まず考えられるのが、社長自身の税金のメリットです。
会社から受け取る給料は給与所得、会社から受け取る家賃は不動産所得、というように税金を計算する上での区分が違います。
つまり、給料は給料、家賃は家賃というカタチで別々に所得計算をしていくんですね。
メリット1:経費を作れる!
家賃である不動産所得を計算する場合、次のようなモノを経費にすることができます。
- 家屋を建てたときの建築費(減価償却費として少しづつ経費にします)
- 固定資産税
- 家を建てたときのローンの利息
- 修繕費などの維持経費
ただ、全額を経費に出来るわけではありません。
事務所として使用している部分に対応するものが経費となります。
例えば、自宅の面積が100㎡であって、事務所で使っている部分が20㎡である場合、20㎡/100㎡=20%相当が事務所に使っていると言えます。
こういった基準を「事業割合」と言いますが、このような基準に基づいて経費にする金額を決めます。
ただ、住宅ローン控除を受けている場合などは、割合の設定によって損してしまうこともあるので注意が必要です。
メリット2:社長個人の青色申告控除も受けることが可能
青色申告の適用を受けていれば、青色申告特別控除も受けることができます。
ちゃんと確定申告をすることによって、経費が無くても10万円の控除を受けることができるのです。
これらのメリットを生かせば、所得税や住民税で有利になることができます。
例えば、毎月3万円の家賃という設定にして、経費として月間2万円程度が見込める場合を考えてみましょう。
- 年間収入:36万円
- 年間経費:24万円
- 青色申告特別控除:10万円
- 差引不動産所得:2万円
というカタチになります。
所得税と住民税の税率を併せて30%の人であれば、お給料で3万円もらうより家賃として3万円もらった方が、約7万円ほど有利になるんですね。(※給与所得控除の計算などで若干違いは出てきます)
メリット3:代表取締役社長の社会保険料の削減
ちょっとこれがメリットになるかどうかはビミョーなのですが、社長自身の社会保険料負担の削減にもつながります。
現在の法律だと、社会保険料の金額を決めるのは、会社から受け取る給料(役員報酬)を基準に計算されます。
この社会保険料の基準になる給料は、会社が社長に支払う家賃について対象外となるのです。
ですから、例えば役員報酬が40万円、家賃を5万円とした場合と、役員報酬を45万円にした場合を考えてみましょう。
役員報酬が45万円の40歳以上の社長の場合、社会保険料の本人負担は64,600円ほどです。
それに対して、役員報酬を40万円にした場合、社会保険料の本人負担は60,224円ほどで済みます。
個人事業の場合、本人負担と会社負担は結局同じサイフから出るイメージですから、月間で8,600円。年間で考えれば10万円ほどの差額になってきます。
会社に消費税の節税メリットが生じる
会社の売上が1,000万円を超える場合には、消費税を払わなければならない義務が発生します。
この消費税の計算は
という考え方をするのが原則です。
実はこの「支払った消費税」を計算する際に、お給料よりも家賃の方が有利になります。
例えば、お給料は消費税の対象にはならないのですが、支払う家賃は消費税の対象となるのです。
先ほどの例のように年間60万円の家賃を支払った場合、一見すると消費税が無いようには見えますが、「税込で支払っている」と考えるんですね。
ですから、60万円÷1.08×8%=4万4千円相当の消費税を含んでいるということになります。
納める消費税の計算をする際には、この4万4千円を引けることになり、お給料で取るよりもその分だけ、消費税を少なくすることができるんです。
と思うかもしれませんが、社長の消費税の対象となる収入(テナント家賃など)が1,000万円未満であれば、消費税を納める義務はありません。
「益税」として批判を受ける部分ではありますが、法律的には納めなくてもOKなのです。
ちなみに、消費税には2種類の申告方法がありまして、簡易課税制度の場合にはこのメリットはないので、注意が必要です。
デメリットもあるので気を付ける必要あり
ただし、これらの節税テクニックには、デメリットの部分もあります。
- 少額であっても毎年確定申告をしなければならない
- 住宅ローンなどの制限を受けることがある
- 法人成りしたばかりの個人の場合、消費税の納税が増えることがある
などのデメリットです。
法人成りをすると、確かに税金対策のバリエーションが増えますが、上手に活用しないと損することもありますので、ネットの情報だけには頼らないようにはしましょう!
住宅ローン控除や消費税など、ちょっと間違えただけで、何十万円以上も損することがあるので気を付けましょう!