「労災保険を使うと労災保険料が上がってしまう」と考えている経営者の方は非常に多くいらっしゃいます。
確かに労災保険にも、給付された保険金の額を保険料に反映させる「メリット制」がありますが、これは「利用の有無」ではなく「従業員数」によって定められます。
間違った知識を覚えると労災隠しに繋ることもあるため、覚えておくと良い知識です。
労災保険給付を受けた翌年の保険料は上がる?
労災保険とは?
労災保険の正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。
労災保険は、労働者が業務・通勤中に怪我等を負った場合に、必要な給付を行う制度です。
具体的には治療費や休業補償が給付されており、労災保険の保険料は、労働者に支払った賃金と業種ごとに決められている労災保険料率を基に決められます。
労災保険の保険料はどう決まる?
労災保険の保険料は、労働者に支払った賃金と、業種ごとに決められている労災保険料率をベースに決定されます。
労働者の数が増えたり、支払う賃金の額が増えれば、保険料は上がりますし、林業や建設業、それに鉱業など、危険度が高い業種の方が保険料が高くなります。
さて、自動車保険のように一部の保険では、保険を使うと翌年の保険料が上がる保険があります。
労災保険も同じように、保険の給付を受けると、翌年の保険料が上がってしまうと考える方が多いようです。
労災保険は従業員数で保険料の増減が変わる
確かに、労災保険の給付の有無が保険料に反映しないとしたら、保険料負担の公平性に欠けると言えます。
更には、労働災害防止意識も希薄となってしまいます。
保険料が増減する制度「メリット制」
これを踏まえて、労災保険においても、給付された保険金の額を保険料に反映させる「メリット制」という制度があります。
このメリット制ですが、自動車保険等の一般的な保険と決定的に違う点が1つあります。
自動車保険等の場合は、保険金の給付を受けた全ての契約者が、翌年の保険料について影響を受ける対象者となります。
しかし、労災保険のメリット制で対象となる事業所は、従業員数が20人以上の事業所であり、従業員数20人未満の事業所では、給付の有無によって保険料の増減はありません。
メリット制の適用対象は従業員数が20人以上
従業員数が20人未満の事業場では、どんなに保険金の給付を受けても、翌年の保険料が上がることはありません。
逆の視点で捉えれば、何十年も無事故で全く労災保険を使わなくても、保険料が下がることはありません。
労災保険は「使用すると保険料が上がる保険」ではなく、「従業員数で保険料が上がる保険」なのです。
労災保険の知識不足は労災隠しに繋がりやすい
ちなみに、従業員数が20人以上の場合でも、純粋に保険給付の額が保険料に影響してくるのは、従業員数が100人以上からとなります。
従業員数が、20人から100人の場合では、給付金が一定額以上になった場合に、保険料の増減が行われます。
労災保険使うと保険料が上がるは誤解
一番怖いのは、「労災保険を使うと自動的に労災保険料が上がってしまう」と誤解されている経営者の方が、非常に多くいらっしゃることです。
この誤解は「労災隠し」や「健康保険の不正受給」に繋がりやすいものです。
労災事故にも関わらず、健康保険で受診させたり、労働基準監督署に必要な報告をしないと、後になって大きなトラブルが生じやすくなります。
労災隠しは犯罪
労災隠しは立派な犯罪となります。
昨今の労災隠し多発により、労働基準監督署は労災隠しに対して非常に厳しい対応を取っており、書類送検されるケースも決して珍しくありません。
もし、書類送検されれば、企業のイメージダウンは甚大なものとなってしまいます。
どんな理由であれ、書類送検されて結果的に刑事罰を受けることとなること以上に、会社として優先されるものなどありません。
その視点から考えれば、「労災隠し」が、いかに割りが合わないものであるということが、皆さんにもご理解いただけると思います。