中小企業経営者の方は「BCPは上場しているような大企業や、大工場を持つような会社が作成するものであって、中小企業にはさほど必要ない」と思われている方が多いようです。しかし、資本が少なく限られた資源の中小企業こそ、緊急時の対応策をまとめたBCPが必要となります。その理由を詳細に解説致します。
中小企業はBCPの策定を他人事と捉えがち
事業継続計画(以下:BCP)とは、「企業が不測の事態や脅威に遭遇した際の損害を最小限にとどめつつ、事業の継続あるいは早期復旧のために、普段行うべき活動や緊急時の対応策などを決めておく計画」のことです。
多くの経営者の皆様とお話をしていると、「BCPは上場しているような大企業や、大工場を持つような会社が作成するものであって、中小企業にはさほど必要ない」と思われている方が多いようです。
確かに、大企業は数多くの従業員を統制しなくてはならない、などの理由から策定していることが多いのが事実です。
しかし、それ以上に、 中小企業は少ない資本を守らなくてはならない分、早期の復旧や立て直しが必要となってきます。
つまりは、中小企業にこそ、BCPはとても重要なものなのです。ここからは、その理由をご説明しましょう。
中小企業こそBCPの策定が必要とされる理由
東日本大震災では、多くの企業が倒産や事業の縮小などに追い込まれました。
また、直接の地震被害を受けていない会社でも、サプライチェーン(全工程までの会社間の役割分担や繋がり)の影響で倒産してしまったような二次的被害も目立ちました。
2012年に帝国データバンクが発表した、東日本大震災の倒産の原因では、地震による直接被害が3割だったのに対して、間接的な被害は7割にも及びました。
間接的な倒産原因として上げられたものには、以下のような回答が上がっています。
- ・得意先が被災してしまったため
- ・親会社が倒産してしまったため
- ・仕入れ先が被災してしまったため
- ・自粛のあおり
さらには、人員不足や原材料が入手できずに生産ができなかった、復旧が遅れたために取引先が離れてしまった、などがあげられます。
このように間接原因による倒産の多くは、自分たちが原因ではなく、外部要因に大きく左右された事実が見えてきます。
大企業ならば資本も人員にも余力がありますが、中小企業は資金耐力が小さいために死活問題となりかねません。そのためにも被害を最小限に食い止め、早期復旧が不可欠になるのです。
BCPを策定しないことで起きた訴訟事件もある
特に地震については、「数百年振りに活動期に入った」と公言している研究者も多く、首都圏直下、東海・ 東南海地震に限らず、日本全国どこで大規模地震が発生してもおかしくない状況下と言えます。
既にメーカー側からサプライヤー会社に対して、BCPの策定を要求する動きや、サプライヤー間でのリスク管理の意識が高まりつつあります。
つまりBCPは、取引先やお客様からのリスク管理の要望として、必須な時代になってきているのです。
また、宮城県のある自動車教習所が、教習所で津波に巻き込まれた生徒達の親族に訴えられたことは、事業者としての責務を喚起します。
裁判では、津波被害を充分回避できていたのにも関わらず、防災計画や防災マニュアルを整備せず、避難指示を怠ったことが、「人災」と認められ、最終的には損害賠償金の支払いが命じられたのです。
社会的ニーズを踏まえると、BCPを企業の責務として策定する要求は、今後増えることはあっても減ることはないでしょう。
中小企業がBCPを策定するメリットとは?
それでは、中小企業がBCPを策定するメリットは、どこにあるのでしょうか?
先述のような突発的な天災など緊急事項から、従業員の生命や会社の資産を守ることはもちろんですが、実はBCPの策定には、それ以外のメリットもあります。
まず1つめに、優先すべき業務を絞り込んだり、経営資源の弱点を抽出したりすることで、事業の見直しを行うことが可能となります。
更に、緊急事項が起きても、重要業務の早期復旧に向けた対応が取れることにより、市場や顧客の占有率軽減、企業評価の低下を防ぐことができます。
また、下記のような効用もあります。
- 業務の重要度と優先度が見えるようになる
- 会社の強みと弱みが明確に見えるようになる
- 取引先からの信頼性向上が付与される
- 営業戦略上の企業イメージの向上が付与される
- 従業員の自主性が向上するようになる
このように、BCPの策定には、副次的な効果が様々あります。
資源が限られ、少ない資本を守りきらねばならぬ中小企業こそ、BCPの策定によって、企業価値を向上させることが賢明な策なのです。
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著者:
災害リスク評価研究所 代表
松島 康生先生
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