他人が吸ったタバコの副流煙を強制的に受動喫煙させられるのは、嫌な人にとっては非常に不快なことです。しかし、受動喫煙させられた側が、もしも副流煙が原因で病気になったら大問題となります。裁判に訴えられるケースも生じているからです。会社全体で、真剣に受動喫煙問題を考える時代が到来しているようです。
喫煙率の低下と共に職場の受動喫煙防止に対する意識が高まる
たばこ産業の「平成26年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の平均喫煙率は30.3%でしたが、これは昭和40年以降のピーク時(昭和41年)の 83.7%と比較すると、48年間で実に53ポイント減少したことになります。
信じられない方もいるかもしれませんが、一昔前なら、デスクで仕事中であろうと、電車のどこの座席に座っていようと、喫煙者はタバコを自由に吸うことができました。
でも、今はそんな風景は見られなくなりましたよね。
このように、日本における喫煙率が著しく低下すると同時に大きな問題となっているのが、受動喫煙の問題です。
受動喫煙とは、ほかの人が吸うタバコによって生じた副流煙(タバコの先から出ている煙)や、呼出煙(タバコを吸う人が吐いた煙)を元にした有害物質を含んだ煙を吸うことです。
間接喫煙という呼ばれ方もしていますね。ほかに、二次喫煙、セカンドハンドスモークと呼ばれることもあります。
労働安全衛生法(以下、安衛法)の改正によって、平成27年6月1日からは、職場での「受動喫煙防止対策」が事業主の努力義務になりました。
厚生労働省が実施する支援事業・厚生労働省資料(PDF)より
厚生労働省では、これに関して企業への支援もしていますので、ぜひ活用してみてください。
近年では受動喫煙を理由に疾病した場合、裁判で訴えられるケースも発生しているからです。
そこで今日は、受動喫煙に対して、企業が何も対策を打たないことのリスクを、ご紹介したいと思います。
安全配慮義務を怠ると罰則と賠償金の支払いリスクが生じる
平成20年3月から施行された労働契約法の第5条では、会社が労働者の安全に対して配慮することについて書かれています。
事業主が労働者に対して負う安全配慮義務とは、事業主と労働者が労働契約をしていれば、ほかに特別な規定をしなくても、事業主は労働者を危険や有害なものから保護しなければいけないというものです。
この安全配慮義務において、近年重要視されているのが、受動喫煙に対する企業の防止措置義務です。
というのも、事業主がタバコを吸わない人への安全配慮義務を果たしていないケースが、まだまだ散見されています。
ところが、会社が受動喫煙対策をとらないと、事業主は、安全配慮義務に違反した場合、労働基準法、安衛法(第22条、23条、71条の2)の罰則を受け、それに加えて訴えられたあげく、高額の損害賠償金を請求される可能性があることさえあるのです。
次項では、受動喫煙に対する安全配慮義務を怠ったがゆえに、裁判で訴えられたケースをご紹介したいと思います。
受動喫煙による裁判では700万円の支払いも
古くから受動喫煙に関係する裁判はありましたが、健康増進法が施行されたことで、受動喫煙の対策を講ずる努力義務が明文化されました。
先述の通り、この法律に違反しても罰則はありませんが、努力義務を怠った場合、裁判に訴えられる可能性があります。
厚生労働省が発表した受動喫煙をめぐる訴訟の動向によると、2004年7月に受動喫煙で初の賠償命令(5万円)が出て、2009年4月には受動喫煙に対して700万円での和解が成立したという判例もあります。
1980年の嫌煙権訴訟は、タバコを吸わない人の権利を主張する問題提起型の訴訟とは、内容が変化していることにも留意すべきです。
損害賠償額の多少も気になるところですが、対外的な影響を考えても、事業場内では受動喫煙の防止も含めて、安全配慮義務を果たすことが賢明となります。
実際、この訴訟後、公共施設での禁煙や分煙が進むようになってきましたし、大手企業においても受動喫煙を防止する措置を講ずる企業は増えてきました。
受動喫煙の防止措置は視点を変えれば快適な職場環境を作ることに繋る
では、これらの訴訟リスクを避けるために、事業者はどのような対策を打つべきなのでしょうか?
まず、もしも労働者から受動喫煙に関する苦情を受けた時には、誠意をもって対応するようにしましょう。
勤務中のタバコによる体調の悪化や、健康診断による異常の発見などは、決して問題を放置してはなりません。
受動喫煙の防止に関して、努力義務が設定されたことの意味をよく考えて、事業場内の禁煙、分煙を徹底してください。
受動喫煙の防止は、喫煙しない人が多くなった世の中で、優秀な労働者を雇用する上でも、これからの時代に必要な措置です。
また、受動喫煙の防止措置は、別の視点で見れば、労働者が健康的な環境で就業できるように、適切な環境を整えることにつながります。
訴訟を恐れるのではなく、労働者の健康が会社の健康につながると考えて、早期の検討をお勧めいたします。