法人から個人事業主になる、いわゆる「個人成り」は、コスト削減手段の一つです。
これら個人成りのデメリットを避けるために3つのポイントをチェックするのは賢明です。
個人成りのコスト削減 裏にはデメリットも
ビジネスがうまくいっているときは良いのですが、世の中の経済環境は日々変化していきます。
売上重視の経営スタイルから利益重視の経営スタイルに切り替えれば、事業の規模というものは決して必要なモノではなくなります。
規模を小さくして、家族が食べていける分だけ収入があればいい。
そう思われる方も増えています。
そのような際には、会社(法人)をやめて個人事業に戻る「個人成り」によって、社会保険などのランニングコストを減らすことが出来ます。
個人成りのメリット
例えば個人成りには、
- 法人は社会保険への加入が義務なので、社会保険料の負担が減少する
- 売上が1,000万円以上あれば消費税の納税義務があるので、消費税の負担が減少する
- 個人よりも法人の方が税務申告手続きが難しいので、税理士や社労士などの費用負担が減少する
というような経費削減のメリットがあります。
個人成りにはデメリットもある
しかしながら、すぐに個人に戻ることが必ずしもお得というわけではなく。個人事業に戻ることで起こりうるデメリットもあるのです。
そこで本日は、個人成りすることによりデメリットが生じないかを考える上でチェックしたい、3つのポイントをご紹介したいと思います。
個人成りの前にチェックしたい3つのポイント
1)社会保険料の負担は本当に減少するのか?
例えば、ご夫婦で会社を営んでいたとしましょう。
お給料としてご主人が20万円、奥さんが8万円を貰っていたとすれば、社会保険料の負担は個人が約3万円になります。
社会保険料は、労使折半で同額を会社が負担することになりますが、個人の会社の場合は結局お財布が一緒です。
ということになれば月額合計で6万円、年間で約72万円の社会保険料の負担ということになります。
72万円というとかなり大きな金額ですよね。この負担がイヤで会社を辞めたいと思う人も多いのです。
それでは個人事業に戻った場合はどうでしょうか。
個人の場合は、国民年金と国民健康保険の負担が発生します。
国民年金は1人当たりの負担が年間約20万円です。奥さんと二人分で年間負担は40万円。
国民健康保険は収入だけでなく、所有している不動産や家族構成によっても異なってきますが、この例で言うと、だいたい年間で約50万円程度になると予想されます。
国民年金と国民健康保険を併せる…なんと年間で90万円の社会保険の負担になるのです。
家族、所有している土地や建物、収入の内容によって状況は変わってきますので、必ず個人に戻る場合にはチェックしておきたい項目です。
2)税金の負担は本当に減少するのか?
会社がほとんど儲かっていないから、個人にした方が税金も少なくなるだろう、と思うかもしれません。
確かに個人に戻ることによって、2年間の消費税の免税制度を活用できたりもしますし、赤字の場合でも負担しなければならない7万円の法人税均等割も無くなります。
短期的に見れば、納税の負担は減ることの方が多いですね。
ただ、少し長い目で見ると法人を継続していたほうがオトクな場合もあります。
会社から利益相当を給料として取っていれば、給与所得控除というモノを活用できますし、奥さんの給料が一定額以下であれば、配偶者控除なども活用することができます。
お二人分の給料所得控除を活用すれば、年間で所得税と住民税を10万円以上少なくすることができるのです。
全く収入が上がらない事業であれば、個人にした方が良いとは思いますが、年間で300万円程度の給料をとれるのであれば、法人を継続した方が税金的には有利になります。
消費税の免税も最大で2年程度ですから、このあたりの負担とのバランスも見極める必要があるでしょう。
また、会社に多くの赤字(欠損金)が残っていたり、社長個人が会社に多くのお金を入れていたりする場合は、要チェック!
それぞれの状況によって、対応策も変わってきますので、チェックしておきましょう!
3)ランニングコストは減少する?
「会社の決算や税務申告なんかはムズカしくて自分ではできないけど、個人の確定申告なら自分でできるだろう」
確かに会社の決算や申告の手続きは、普通の人がやろうと思っても、簡単に出来るモノではありません。
やってできないことも無いと思いますが、相当勉強したり時間をかける必要があります。
どうしても税理士などの専門家に依頼する必要がありますが、税理士への支払も小さくはありませんよね。
個人事業の場合でも確定申告を行わなければなりませんが、法人税の申告と比べれば、その難易度もボリュームも雲泥の差です。
やろうと思えばご自身でも出来ますし、仮に税理士に依頼をしたとしても、法人の時に払う費用の半分程度で済むことが多いようです。
また、ネットバンクやクレジットカードの費用、自動車保険なども個人の方が安く済むケースが多いです。
そういう意味でランニングコストは確かに減少します。
ただ、個人事業に変えても減らない費用というモノも存在しますし、法人でないと受けられないサービスというモノも存在します。
以前、お客様の中で、ある商品の販売代理店をしていた方がいられました。
個人に戻す方向で準備をしていたのですが、準備を進めていく途中で、代理店契約は法人でしか受けられないことが発覚。
途中で分かったので良かったのですが、もし先に法人を消滅させていたらと思うとゾッとしますね。
このように、コスト以外の面でもポイントになることがありますので、個人成りを検討する際には、必ずチェックしておくようにしましょう。
撤退戦は必ず専門家に相談しながら進めよう
「法人をやめて個人に戻したい」というときは、たいてい事業を縮小したいという時が多いかと思います。
そんなに資金的にも余裕がないと思いますので、「専門家に相談するとお金がかかるかもしれない」と思って自分で進めてしまうコトも多いかと。
しかし、実は「拡大するコトよりも縮小するコトの方が難しい」というのは、昔からの鉄則として言われているコトでもあります。
戦国時代にも、進撃するよりも、戦場から撤退する時の方が難しいと言われていました。撤退の際に一番最後を受け持つ「殿(しんがり)」の役目は非常に重要でしたからね。
ダイエットも体重を増やすよりも減らすことの方が大変ですし、お付き合いするよりも別れる時の方がエネルギーを使うものです。
こういう撤退の場面こそ、しっかりとしたアドバイスを受けながら進めていくコトが大事なのですよ!