国民投票によって英国のEU離脱が決まってから2週間が経過しました。改めて選挙の結果を見てみると、今回の選挙結果を左右した2つの「よろん」に改めて注目できます。2つの「よろん」とは「世論」と「輿論」ですが、2つの違いとは何なのか?高度な政治運営が行われるために求められるのはどちらか?解説してまいります。
英国のEU離脱劇でキーワードとなった「よろん」
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
世界を揺るがした英国のEU離脱派勝利のニュース。
おそらく世界の多くの人が、なんだかんだ言っても、最終的には英国国民は「残留」という決定を下すだろうと考えていただけに、僅差とはいえ「離脱」という結果になったことは、大きな驚きをもたらしましたね。
私自身はEUについての専門家ではありませんし、英国のEU離脱の是非を語ることはできませんが、大衆の心理に関わる研究はそれなりに深めてきていたことから、社会心理学的な視点から興味深いと思われることを書きたいと思います。
今回の英国での国民投票が行われるまでの離脱派と残留派のアピール合戦、そして「離脱派」の勝利という結果をみて感じたのは「世論」と「輿論」の違いです。
今日は、この2つの違いを解説しながら、個人の政治に対する行動心理と、望ましい政治運営について、考えてみたいと思います。
世論と輿論の違いとは?政治で重用されるのは…
さて、「世論」と「輿論」はどちらも、読みは「よろん」です。
現在は「世論」という言葉が一般に使われており、「輿論」という表現を目にすることはめったにありませんが、それぞれ意味は異なります。
まず「輿論」ですが、別の表現をすれば「天下の公論」、英語では「パブリック・オピニオン」と訳されます。
「輿論」とは、個人がある対象に対して持っている明確な考えや意見に基づくもので、そこには個々人の責任が伴っているものです。
一方、「世論」は「民衆感情」と言い換えられます。英語では「ポピュラー・センチメント」です。
「世論」はその時々の人々の感情や気分に左右されやすいものであり、その時代の人々が共有する「空気」のようなものです。
すなわち、「輿論」が、客観的事実・データに基づく議論を通じて形成される理性的な主張であるのに対し、「世論」は、主観的な感情・気分からくるコロコロと変わりやすい主張だといえます。
従って、一般により良い国政を目指す視点からは、「輿論」の形成が重要であり、「世論」とは極端な物言いをする政治家などによって煽動されやすいものであるため、時に鎮静されるべきだと考えられています。
政治は輿論によるバランス感覚ある決断が必要
では、こうした「世論と「輿論」の違いを踏まえて、先日の英国の国民投票について考えてみましょう。
全国民が投票権を持ち、なんらかの方向性を多数決で決定できるのは一見、とても優れた方法のように感じられますね。
しかし、英国に限らず、日本でも他の国でも、客観的な事実やデータをきちんと集め、様々な立場の賛否両論をしっかり吟味した上で明確な意見や考える国民はいったい全体の何パーセントでしょうか。
実際「何パーセントか」という調査データを示すのは難しいのですが、相当の割合の国民は自分でしっかり考えた結果というよりは、自分が信頼できそうと思える人の言動を信じることが多いでしょう。
またそもそも、国全体の利益よりも、自分の利益を優先した考えを取りやすいのではないでしょうか?
英国の国民投票の論点はいくつかあったわけですが、とりわけ「移民問題」がメインであり、移民たちによって、自分の仕事が奪われる、学校や病院不足が深刻になっているといった意見が離脱派を後押ししたと考えられています。
しかし、英国に実際に住んでいる人によれば、そもそも英国人は、低賃金労働をやらなくなっているし、学校や病院不足は移民だけが原因ではないという指摘をする方もいるのです。
こうしたことを踏まえると、国民が選んだ「政治家」(国政、政治のプロであることが前提ですが)の討議によって国のかじ取りをしていくほうが、客観的な事実・データを踏まえ、国全体の利益と個々人の利益のバランスが考慮された、よりよい政治が行われるのではないかと私は改めて思うのです。(理想と現実が異なるのは承知の上で・・・)
さて、かたや米国では、過激な発言を繰り返すトランプ氏が大統領になるかもしれないという状況ですね。
彼の言動は、まさにポピュラーセンチメンツ(民衆感情)を煽動するものであり、彼を支持しているのは「輿論」ではなく、「世論」なのかもしれません。