従業員が何らかの要因で始業時間に遅刻したとします。もしその従業員がその日残業をしたとしたら、遅刻と残業の時間を相殺することは可能なのでしょうか?答えを先にお伝えすると相殺は可能です。ただし、同一日付で相殺できるか?違う日で相殺できるか?によって、従業員へ支払う給料の金額が変わるので注意が必要です。
従業員の遅刻と残業は相殺することが可能か?
先日、顧問先の社長様から、このような内容の相談がありました。
「先日、1時間程遅刻した従業員がいました。
たまたま彼は、その日に1時間残業をしたのですが、遅刻した時間と残業時間を相殺することは可能でしょうか?」
ご質問のように、1時間遅刻して1時間残業しても、トータルの労働時間は変わりません。
しかも遅刻したのだから、支払う給料は同じで良いのでは?と思われるかもしれません。
果たして、遅刻した時間と残業時間を相殺するのは可能か?ご一緒に考えてみましょう。
相殺は可能も処理方法によっては会社が損する
結論から申し上げます。
遅刻した時間とその日に残業した時間とを相殺することは、法律上何の問題もありませんが、翌日の残業時間と相殺することは法律違反となります。
労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させた場合に、割増賃金を支払うことを事業主に義務付けています。
従って、仮に法定労働時間である8時間とすると、1時間遅刻して1時間残業した時は、結果的に8時間労働となり法定労働時間内に収まります。
このような場合には、通常の1日分の賃金を支払えば良いこととなりますので、結果的に遅刻分と残業分と相殺できることとなります。
ただし、このような扱いができるのは、あくまで遅刻した日に残業した場合であり、遅刻した日の翌日に残業した場合に、遅刻分の時間と残業分の時間を相殺することは労働基準法違反となります。
なぜでしょうか?
日をまたぎ遅刻と残業を相殺する場合の注意点
1時間遅刻した翌日に1時間残業した場合、仮にそれらを相殺すると、2日間の労働時間の合計は16時間となり、1日当たり8時間となり、法定労働時間内に収まるように思えます。
しかし、労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させた場合には、「その事実が消えない」としています。
遅刻した翌日に1時間残業したとすると、その日は9時間労働したこととなり、1時間の法定労働時間超過が発生することになり、割増賃金の支払いを行う必要が生じるのです。
仮に時給1,000円とすると、1時間遅刻したので1,000円の給料を控除できますが、1時間の法定労働時間を超えて労働させているため、1,250円の割増賃金を支払わねばなりません。
遅刻した時間と翌日の残業とを相殺すると、上記の例で言えば250円不足が生じてしまうのです。
これは、残業した翌日に遅刻や早退した場合に、その分とを相殺する場合も同じこととなり、労働基準法違反となってしまいます。
この点はぜひご注意下さい。
法定労働時間の範囲内は割増賃金が必要無い
最後に余談ですが、割増賃金の支払いが必要なのは、あくまで実際に働いた時間が法定労働時間を超えた場合です。
ですから、1日の労働時間が8時間の場合で、午前中の4時間を有給休暇で取得し、その日の終業時刻を超えて残業したとしても、4時間までは、法定労働時間を超えないこととなり、割増賃金の支払いは必要ありません。
例えば、時給1,000円で終業時刻から5時間残業した場合、8時間分については通常の給料を支払えば良く、8時間を超えた1時間分に対して割増賃金を支払えば良いこととなります。
以上が、遅刻と残業時間の相殺についての注意事項になります。ご参考になれば嬉しいです。