ダイソンの横展開 穴あきヘアドライヤーに私達が学べること

企業分析

 技術大国・日本の家電メーカーが凋落する中、機能性が高くエッジの効いた家電を次々ヒットさせているのが、イギリスの家電メーカー「ダイソン」です。ダイソンから今週発売されたのは、モーターをハンドルに搭載し、送風部分に真ん丸な穴が空いたヘアドライヤーでした。ダイソンの商品展開から私達が学べることを紹介します。

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ダイソンが斬新なヘアドライヤーの販売を開始

 東芝やシャープを見ても分かるように、日本のお家芸と言われた家電メーカーの凋落が著しい中、誰も見たことがないような機能・形状の製品で常に驚きを提供しているメーカーがあります。

 それがイギリスに本社を置くダイソンです。

 ダイソンといえば、独自の外観のサイクロン掃除機で掃除機業界に大きな風穴をあけた後、羽のない扇風機や温風機でも世間をアッと言わせました。

節約社長
日本にも深く根付いたダイソンのサイクロン掃除機

 お値段は家電としてはかなり高めですが、機能性やブランドイメージにかなりエッジがきいているため、価格競争に巻き込まれることなく独自のポジションを築いています。

 さて、そのダイソンが、次はヘアドライヤーを発売することが発表されました。

節約社長
ダイソンHPより

 ヘアドライヤーで4万5千円という価格が、一般消費者に受け入れられるかはかなり微妙なところですが、スタイリストや美容師などのプロの方々には一定の需要はありそうです。

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ダイソンの凄さはコア技術の横展開が巧みな点

 掃除機に扇風機、そしてヘアドライヤーと、一見すると何の脈絡もなさそうなラインナップですが、これらに大きく共通するものがあります。

 それは空気、つまり「エアコントロール」の技術であり、そのコアとなるのが小型で強力な「モーター」です。

 ダイソンは小型で強力なモーターを作る技術と、エアコントロールをより効率的に設計する技術においては、他を圧倒する存在なのです。

 自分たちの技術力を最も活かすことができる製品、という観点で徹底的に考えた結果がサイクロン掃除機であり、扇風機であり、今回のヘアドライヤーなのです。

 サイクロン掃除機を作っていたメーカーがヘアドライヤーを出した、という風に見ると突飛な感じがするかもしれません。

 しかし、コア技術であるエアコントロールとモーターという観点から見れば、これらは一本の線で繋がっていますし、非常に理にかなった横展開であると言えるでしょう。

 コア技術を持っている企業は確かに強いのですが、技術面の優位性だけではいつか追い抜かれてしまいます。

 日本の家電メーカーが凋落した原因はこの側面が非常に強く、いい技術を持っており、特許をたくさん保持していたとしても、「それをどう活かすか」という部分が欠けている状態では、技術の持ち腐れです。

 技術的な目新しさや斬新さは、確かに一つの差別化ポイントですが、それによってどういう価値・体験を顧客に提供するのか、ということが最も大事なのです。

 マーケティングの権威であるレビット博士の「顧客が欲しいのはドリルではなく、穴である」という金言の真意もここにあります。

 技術が優れていることは、いい製品であるための1つの要件でしかありません。問題はその技術をつかって、どういう製品を提供するのか、という方なのです。

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自社のコアバリューを理解せねば横展開は無理

 ダイソンやAppleを見ていていつも感心するのは、自らのコアバリューというものを、本当によく分かっているという点です。

 ダイソンは自分たちのことをサイクロン掃除機のメーカーとは考えたこともないでしょうし、Appleも自らをコンピューターを作るメーカーだとは全く思っていません。

 彼らが横展開して成功したのはたまたまではありません。自社のコアバリューをしっかりと見極めた上で、そのコアバリューがもっとも活かせる分野に、効率的に横展開しており、成功は必然であると言えるでしょう。

 昨年アメリカに行った際に、とても驚いたことが1つあります。空港やホテルのトイレに設置されているハンドドライヤー(ジェットタオル)がすべてダイソン製だったことです。

 日本のトイレではTOTOや三菱電機、Panasonicなどの日本のメーカーのものしか見たことがないと思いますが、アメリカではダイソン製のハンドドライヤーの方がメジャーだということです。

 ハンドドライヤーのコア技術も、まさにエアコントロールとモーターです。このようにダイソンは着実に自社の最も得意なことを活かして、横展開をしていっているのです。

 横展開をする上で重要なのは、自社の軸足(コアバリュー)が何かを徹底的に掘り下げることです。

 一朝一夕でできることではありませんが、いったんコアバリューを定義することで、事業展開や判断にブレがなくなり、成功する確率がグッと上がります。

 横展開を考える前に、まずは自社の本当の強みをしっかりと分析してみましょう。

Photo credit: Robert Scarth via Visual hunt / CC BY-SA

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ショーン

某ビジネススクールのMBAホルダーで、税理士資格保有者。
税理士資格は持っていますが、最近ではほとんどそちら側のお仕事はしておりません。

金融機関、会計事務所、CFOなど経験から会計・財務・税務分野はもちろんのこと、法務や社内システムの構築、戦略策定、プロジェクトマネジメントなどを得意としております。また、「効率化マニア」なので、タスク管理や読んだ本のデータ蓄積などを通じて、限られた時間で最大のパフォーマンスを出す方法をいつも追求しています。

コンフィデンシャルなお仕事も多いため匿名でのニュース投稿になりますが、私の経験や知識が少しでも多くの中小企業経営者のみなさまのお役に立てれば思い、精力的に投稿していきます。

なお、ニックネームおよびプロフィール写真は、私の大好きなプロスノーボーダーである「ショーン・ホワイト」から拝借しました。

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