労働基準監督署の調査(臨検監督)とは、労働基準監督官が、労働基準法について違反の有無がないか調査するために企業へ立ち入ることを指します。指導や是正勧告を無視してしまうと、最悪のケースとして起訴されてしまいます。労働基準監督署の調査が入る前に、日頃から適正な労務管理を心掛けることがとても大切なのです。事前に労働基準法で引っかからぬよう、抑えておくべき8つのポイントを解説します。
労働基準監督署が突然調査に来たらどうする?
労働基準監督署の調査(臨検監督)とは、労働基準監督官が、労働基準法について違反の有無がないか調査するために企業へ立ち入ることを指します。
この調査を労務管理改善のチャンスと考え、前向きに捉えることができる経営者も中にはいらっしゃいます。
ただ、実際に、労働基準監督署の調査が入った場合に指導や是正勧告を受けないなら、それに越したことはありません。
今回は、突然、労働基準監督署の調査が入っても、決して慌てないために注意すべき項目と、日頃の労務管理をどのように行えば良いかを、8つのポイントにまとめてみました。
もう怖くない 臨検監督対策8つのポイント
ポイント1:労働基準監督署の調査の種類
調査の種類は3つで申告監督は注意が必要
労働基準監督署の調査(臨検監督)にいかに備えるかを考える場合に、そもそも労働基準監督署は、どのような場合に事業所を調査するのかを知っておく必要があります。
労働基準監督署の調査は、
- 定期監督
- 災害時監督
- 申告監督
というように、基本的に3種類に分かれます。
「定期監督」は、労働基準監督署が任意に調査する事業所を選び、労働基準法等の法令全般に渡って調査をします。原則としては予告無しで調査が行われますが、予め調査日時が指定される場合もあります。
「災害時監督」は、労災事故が発生した際に、労災事故の発生原因究明や事故再発防止の指導等を行うための調査を指します。
「申告監督」は、労働者からの何らかの申告があった場合に、その申告内容について確認するために行われる調査です。
申告監督の場合、労働者保護ために労働者からの申告であることを明かさずに、定期監督として行われる場合と、労働者からの申告であることを明かして行われる場合があります。
ちなみに、平成24年度の数字ですが、労働基準監督署に受理された申告件数は、31,352件で、そのうち、実際に申告監督が実施された事業場は、25,418件にのぼります。
違反事業場は、18,625件となっており、申告監督が実施された事業場のうち、約71%の事業場が何らかの違反行為があったこととなります。
では、実際に、労働基準監督署の調査を受ける場合に、違反事業場とならないためには、まずはどのような点に注意すべきかをお話ししていきたいと思います。
ポイント2:賃金台帳等帳票類の整備
帳簿の管理は会社責任
労働基準監督署が、事業所を調査する場合、どんな種類の調査であれ必ずと言って良いほど、賃金台帳・出勤簿(タイムカード)・労働者名簿の帳票を調査します。
まずは、賃金台帳等の帳票を整備する必要があります。
帳票を整備する際に注意すべき点として、事業主には労働者の労働時間を管理する義務があることを意識するべきです。(時間外労働を含みます。)
出勤簿には出勤・退社の時間が確実に記入されていて、各日の労働時間及び時間外労働時間、深夜労働時間等が管理されている必要があります。
労働時間を管理するのは事業主の義務ですので、「従業員がタイムカードを押してくれない」という言い訳は通用しないこととなります。
更に、賃金台帳には賃金の内訳等を記入するのはもちろん、賃金台帳で多々指摘されるのが、勤務日数、総労働時間、時間外労働時間等の未記入です。
賃金台帳には給料の明細だけでなく、勤怠状況も必ず記入するようにして下さい。
ポイント3:最低賃金と割増賃金
残業代は必ず法律に則り払うべし
賃金は労働者にとって最も重要な労働条件であるため、労働基準監督署の調査でも厳密に調べられます。
賃金についての規定はいくつもあり、調べられる内容は多岐にわたりますが、ここでは最も重要な、最低賃金と割増賃金についてお話ししたいと思います。
まず最低賃金は各都道府県ごとと産業別に最低賃金が定められているため、従業員に支給している給料が最低賃金を上回っている必要があります。
最低賃金の概要や計算方法につきましては「確認しましょう!最低賃金 5つのポイント」(厚生労働省)をご参照下さい。
次に割増賃金についてですが、この割増賃金が、労働基準監督署の調査の中で最も重要と言えます。
労働者からの申告の内容で最も多いのが賃金の不払いだからです。
賃金そのものの不払いも当然あるでしょうが、割増賃金、特に時間外割増賃金(残業代)の不払いも多々申告されていることは容易に想像が付きます。
残業代等の割増賃金を労働基準法の規定に則って支払うことが、労働基準監督署の調査に対しては最も重要なポイントなります。
割増賃金を法律に則って正しく払うには、まず、正しい計算方法を理解することと、等の割増賃金を計算する際に、特別な取扱いをする手当について正しい取扱いをすることが重要です。
ポイント4:36協定の提出
遵守が好印象の第一歩
労働基準法では、法定労働時間が定められていて、1日8時間、1週40時間を超えて労働者に労働させることはできません。
法定労働時間を超えて労働させる場合には、時間外労働及び休日労働に関する協定届(通称、36協定)を、労働基準監督署に提出する必要があります。
労働者に残業をさせるということは、事業主の当然の権利ではなく、この36協定を労働基準監督署に提出して初めて、労働者に残業を命じることができるのです。
ところで、36協定に基づいて労働者に残業をさせる場合には、法律的に提出しなければならないのですが、仮に36協定が未提出であっても、現実的にはまず罰則を課せられることはありません。(だからと言って、提出しなくても問題無いということでは決してありません。)
あくまで個人的な見解ですが、私は36協定はしっかり提出することによって、監督官の印象がかなり良くなると考えています。
つまり、36協定がしっかり提出されていれば「この会社は、労務管理に対して真面目に取組んでいる」という印象を持たれる可能性は高いと思います。
だからと言って調査が甘くなることはありえませんが、監督官に好印象を持ってもらうということは決してマイナスとはならないはずです。
逆に、36協定も提出していなければ、「36協定すら出していないのか」と思われてしまいます。
この場合、調査に悪影響を及ぼしてしまう可能性は、十分に考えられます。労働者に時間外労働等をさせる場合には、必ず毎年提出するようにして下さい。
ポイント5:変形労働時間制の届出等
手続きは必ず怠らず実行せよ
ポイント4でもお話しましたように、労働基準法では法定労働時間が、1日8時間、1週40時間と定められています。
仮に1日の所定労働時間を8時間と定めると、1週間の法定労働時間である40時間を超えないためには、完全週休2日制とする必要があります。
とはいえ現実には、多くの中小企業で完全週休2日制を導入するのは困難なことです。
よって労働基準法では1ヶ月や1年間を通じて、週の平均労働時間が40時間以内となるよう、1ヶ月単位の変形労働時間制あるいは1年単位の変形労働時間制を定めています。
変形労働時間制を用いることによって、ある週の労働時間が40時間を超えたとしても、1ヶ月又は1年を平均して40時間以内となっていれば、法律違反とはならなくなります。
1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するには、就業規則にその旨を記載する必要があり、1年単位の変形労働時間制については、所定の届出書を労働基準監督署に提出しなければなりません。
労働基準監督署の調査において、変形労働時間制度のための適正な手続きは、非常に重要な意味をもちます。
なぜなら
- 1ヶ月単位の変形労働時間制:就業規則に記載
- 1年単位の変形労働時間制:協定届等を労働基準監督署に提出
という手続きを経てはじめて、週40時間を超えて労働させた場合でも、割増賃金の支払いが不要となります。
しかし、この手続きが、適正になされていなければ、監督官は、週40時間を超えた時間について全て割増賃金の支払いが必要と判断します。
その結果、多額の割増賃金の不足が生じてしまう恐れがあるのです。
変形労働時間制については、適正な手続きが行われていないと、多額の支払い請求が出されてしまう場合があるので、ご注意下さい。
ポイント6:労働条件通知と就業規則
10人以上の所帯を持ったら必ず作成
労働者を新たに雇用した場合には、賃金や労働時間等の一定の項目について、書面で労働者に通知することが、労働基準法により事業主の義務と定められています。
そのため、労働基準監督署の調査では、労働条件の通知が適正に行われているかが調査されます。
また、常時雇用する労働者数が10人以上の事業場には、就業規則の作成義務が定められています。
そのため就業規則が無い、従業員数が10人以上の事業場に労働基準監督署の調査が入ると、就業規則の作成が指導されます。
ですから、従業員数が10人以上なった場合には、なるべく早く就業規則の作成を検討されるのが良いでしょう。
ポイント7:健康診断の実施
1年に一回は義務と思い制度化しておこう
労働安全衛生法により、常時使用する労働者を雇用する時、及び常時雇用する労働者に対して、1年以内ごとに1回の健康診断の実施が事業主に義務づけられています。
あまり良い言い方ではないのですが、仮に健康診断を実施しなくても従業員が健康で働いてくれていれば、業務に支障が出ることはまずないでしょう。
事業主も労働者も健康診断に対して、意識が希薄な面があるのは否めないでしょう。
しかし、労働基準監督署の調査では、この健康診断の実施の有無は必ず調査の対象となります。
1年回の健康診断の実施については、会社の行事的に考え、毎年決まった月に実施するよう制度化するのが良いでしょう。
ポイント8:衛生管理者・産業医・作業主任者等の選任
自社の環境に合わせて適正に配置
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者を選任する必要があります。
また、同じく常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任する必要があります。
労働災害を防止するための管理を必要とする一定の作業については、その作業の区分に応じて作業主任者の選任が義務付けられています。
作業主任者には、必要な免許取得や技能講習を受講させるとともに、事業場内に氏名等を掲示する必要があります。
労働基準監督署の調査では、このような衛生管理者、作業主任者等の選任状況等も必ず調査されます。
ですから、衛生管理や産業医等を選任すべき事業場では、必ず選任しておく必要があります。
調査の指導や是正勧告を無視すると最悪起訴も
今回ご説明した以外でも、長時間労働や有給休暇について調査される場合がありますが、私のこれまでの経験から、指導や是正勧告を受けやすく、しかもその改善に多くの時間を要してしまうものを本稿ではまとめました。
ご紹介した項目に関して、法律の基準に適した労務管理が行われていれば、労働基準監督署の調査を恐れる必要はほとんどありません。
労働基準監督署の調査よって指導や是正勧告を受けた場合には、必ず改善を行わなければなりません。
指導や是正勧告を無視してしまうと、最悪のケースとして起訴されてしまいます。
改善を行う作業はそれなりの時間が必要で、事業主にとって非常に非生産的な時間となってしまいます。
労働基準監督署の調査が入ってからでは、どうすることもできません。日頃から適正な労務管理を心掛けることがとても大切なのです。