衆議院選挙でも議論の争点となっている、生活必需品などにかけられる「軽減税率」は今後の企業運営や商品開発に大きな影響を及ぼす。政府が消費税の再増税を実現するために導入が必須要件となるため、2017年ないし2018年の導入を前提に、今のうちから経営者として事前準備、検討できることを整理しよう。
軽減税率とは 消費税の再増税に必須要件
今回の衆議院選挙において、消費税の再増税と共に大きな論点となっているのが「軽減税率」だ。
軽減税率とは「特定の品目における課税率を、他の品目に比べて低く定め、一般消費者や低所得者の消費活動を支援する目的で設けられた税金の軽減措置」である。
消費税は誰もが同率で支払う税金のため所得が低い人に負担割合が大きい税金となってしまう。よって政府は生活必需品、特に食品分野において軽減税率の導入を実現させようと躍起になっているのだ。
欧米諸国では既に多くの国で軽減税率が導入されている。理由は国が早い段階で斜陽経済を体験し貧富の差が歴然としているため、社会的弱者の救済措置制度として早い段階から制度が発達してきたためである。
例えば軽減税率の先進国イギリスでは、食料品、水道代、医薬品代、雑誌が非課税となっている。しかしこれら例外を除くと日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)は20%の税率が課せられている。
消費者としては軽減税率導入は大歓迎であるが、企業にとっては様々な弊害が生じる可能性が高い。よって今のうちに軽減税率が導入されることを見越して、スムーズな会社運営が可能なように準備しておくことは重要だ。
軽減税率 導入前に検討すべき4つのこと
1)自社の販売商品の軽減税率対象有無を想定し分類整理する
商品を扱う会社にとっては「嗜好品」であるか「生活必需品」であるか、「商品」か「サービス」であるかという2つの判断が、軽減税率措置を取られるか否かの大きな分かれ道となるため、ラインナップを確認し分類整理しておくことをお勧めする。例えば、イギリスの例を出すとビスケットには付加価値税はかからないが、チョコレートビスケットには20%の税金がかかる。現時点ではどのような分類を財務省が行うか不明瞭なため、自分たちの判断で分類整理しよう。
2)軽減税率適用外が予想される不採算商品の撤退を検討する
明らかに「嗜好品」や「サービス」といった軽減税率の対象外で、不採算な商品やサービスには更なる消費税の追い打ちがかかり、企業のコスト増要因となってしまう。今のうちに撤退を検討し、採算の合う部門や商品へ経営資源を集中させることを検討したい。
3)経理部門を今から軽減税率に対応可能な状態へ準備させる
実務で一番大きな影響を受けるのが経理部門である。消費税だと同率課税でまとめて処理できたものが、軽減税率の導入により、商品の売上や仕入れ毎に税金計算が変わってしまう。経理部門にはチェックや入力面で大きな負担がかかることが想定されるため、現時点から担当者を交えて税理士・公認会計士と自社で想定される混乱や会計上の注意点について相談しておきたい。特に税込経理方式で損益計算書を作っている企業は今のうちに税抜経理方式の損益計算書への切り替えを行おう。
4)軽減税率に関わる利権団体の動きをチェック
軽減税率が適用されるか否かがわかりにくい商品や「サービス」を扱う企業の場合、利権団体と財務省の癒着交渉しだいで自分たちの商品がどのように扱われるか決まってしまう場合が想定される。例えば小売スーパーであれば日本チェーンストア協会、コンビニエンスストアであれば日本フランチャイズチェーン協会の動きである。逐一ニュースをチェックして最新の動向を手に入れよう。
大混乱が予見される 十分に備えよう
日本新聞協会が作っている軽減税率に関する特設サイトをご覧になったことがあるだろうか?※1
このサイトが訴えていることは「新聞は生活必須インフラであり、軽減税率を新聞に適用すべき」ということである。同じようにインターネット業界、テレビ業界でも訴えが起こり、公平性を担保しながら「生活必需品とは何か?」という論争が今後起こることは必須だ。
もっと身近なところで言えば「スペイン沖産マグロ」は生活必需品だから軽減税率が適用され、「大間のマグロ」は嗜好品だから適用外となるのか?という論争さえ起きてしまう。
選挙は自民党の大勝が予想されるが、明確な線引が早期に公平性を保って行われることを望む。
企業としては上記に記述した「今できること」を早急に準備して十分に備えておきたい。
※1 日本新聞協会特設ページ
http://www.pressnet.or.jp/keigen/