飲食業界の慣習をことごとく覆してきた高級料理店といえば、俺のシリーズ各店（運営：俺の株式会社）に他なりません。高級食材を単価は安く、立ち食い形式で顧客回転率を高めに設定することで利益を得てきた同社ですが、近年では消費者の慣れや着席型を求める声などもあり、思い切った業態転換が行われると目されています。更には規模の拡大を見据えたフランチャイズ展開も今後行われるようです。
｢俺のシリーズ｣が全席着席型スタイルで新展開
今年9月に日経新聞は、かねてから飲食スタイルを“従来の立食型”か“着席型”の2つのスタイルで実験してきた「俺のシリーズ」が、『今後出す新店舗を原則、全店着席スタイルにする。』と、創業者・坂本孝社長のインタビュー記事を掲載しました。
大型店も計画し、今冬には国内フランチャイズチェーン展開を見据えたモデル店も開くと坂本氏は言及しています。
俺のイタリアン、俺のフレンチ、俺の割烹に代表される「俺のシリーズ」は、立ち食い形式で顧客回転率を上げ、高級食材を安く提供することで人気を集めていました。
従来の立ち食い形式を否定する、新しい「俺のシリーズ」展開にはどんな目論見があるのでしょうか？
当初の“俺”と今の“俺”で何が変わったのか？
「俺のシリーズ」を展開する 俺の株式会社は当初、高級食材を提供する従来の店舗が持つ常識をひっくり返すところから事業をスタートしました。
従来のスタイルとは、人件費・サービス料は料金に転嫁し食材原価率は30％以内に抑え、1人あたり売上を徹底的に重視するスタイルです。
これに対して俺のシリーズは、小規模な店舗スペースで料理のレベルを落とさずハイレベルの料理を原価率高めの低価格で提供し、1人あたり売上よりも顧客回転率を重視するスタイルを取りました。
参入障壁として三ツ星レストランのシェフを料理長に据えたことは、メディアの注目を集めるきっかけともなりました。
座れる席を絞り込み、行列をつくりだしたことで、噂は噂を呼び、コストパフォーマンスを重視する「食べログ」ユーザーにも好評価を得た結果、マスコミの報道に定期的に取り上げられ、更に行列を長くするといった手腕は、業界人も舌を巻く圧倒的な好循環を生み出したのです。
しかし近年では、消費者の慣れや着席型を求める声などもあり（激戦区の銀座・新橋地区のシリーズ1号店「俺のイタリアン新橋本店」フレンチの1号店「俺のフレンチ銀座本店」などを除く）どの店も時間帯によっては空席が目立つような状況が目立ちます。「営業の2時間前から行列ができはじめ、閉店まで行列が途切れず常に満席」といった、”俺のシリーズ”では当たり前だった光景にも陰りが見えてきたのです。
店舗展開を加速することで、当初築いた参入障壁「三ツ星レストランのシェフが作る」という尖ったキーワードもあまり押し出せなくなっています。
いかに「俺のシリーズ」と言えど、顧客が一巡してブームが去った通常の営業状態に入りつつあり、また時を同じくして円安による輸入食材高騰、電気代や消費税のアップといった外的要因から、実質値上げの決断に迫られているのが実情と推察できます。
これからの｢俺のシリーズ｣はどう展開する？
「着席の方が接客がしやすい」という現場の声や「多少高くても座りの方がいい」という顧客の声に応えて大きく方向転換を図る「俺のシリーズ」。いざ全席着席となると最も懸念されるのが、顧客回転率の低下です。
立ち食い店の顧客回転数は平均3～5回転ですが、全席着席の店では2時間の顧客入れ替え制にして平日のディナータイムでも3回転を確保し、厨房のレイアウトやオペレーションも見直し、客席が多少減っても単価を上げて利益が出るようにするという目論見があるようです。
全席着席型で客単価は立ち食い型より2～3割高まり、5千円前後の水準を維持する方針。既存店でも100平米以上の店舗はすべて着席型に切り替える計画を同社は打ち出しています。
国内FC展開で事業の多角化を目指す
更に11月に入り「俺のシリーズ」はフランチャイズ店のモデルとなる直営店舗を2店、都内に開く計画を進行中です。
おでんとそばを合わせた和食スタイルと、フレンチと割烹を組み合わせた業態による出展で、モデル店の面積はなんと約100平米。12月にはFCオーナーの募集を開始し、来年夏頃にはFC第１号店を国内に開く予定とのこと。地方での開業要望も増えてきていることから、このモデルを確立させ、多店舗展開ができる体制を整えたいとしています。
2011年9月に東京・新橋に1号店を開いてから4年。海外の3店を含め約40店舗を展開する「俺のシリーズ」は14年10月期の売上で実に約74億円を稼いでいます。ブランドの特徴を180度転換するという驚きの方針転換で、業界に新たな一石をを投じる“俺のシリーズ”の今後に再び注目です！