円安や国際的な飼料の奪い合いが生産価格に影響し、バター価格が高騰し歴代最高値を記録している。生産者の減少や乳製品市場における優先順位の低さが引き起こしたショックといえる。農業ビジネス界は現在大きな変革期にある。バター価格の高騰は業界が抱える「不効率」についてのサインであり、逆にビジネスチャンスも狙える。
バター価格が大暴騰 複雑に絡む理由
国産バターが小売店から消えていることを読者の皆さんも御存知と思う。今年の8月にバター価格は昭和60年の1,305円/kgを記録以来となる高値1,309円/kgを記録した。昨年から10%生乳生産量が減少している煽りを受けた形だ。
バター価格高騰における1番の理由は、酪農家の離農による乳牛頭数が減少していることにある。この5年で日本の乳牛飼養数は150万頭から142万頭へと6%減少しており、乳牛飼養生産者は2万3千戸から1万9千戸強へと20%減少している。※1
輸入率90%に及ぶ飼料の価格が高騰しているにも関わらず、牛乳をはじめとした乳製品の市場(卸)価格が小売店のパワーマネジメントによる価格操作で段階的にでも上がらなかったのだから仕方がない。儲からない構造の商売から身を引くのは経営者として健全な判断となる。
副次的なバター高騰の理由は、「乳製品内におけるバターの生産優先順位」だ。バター用の生乳は牛乳向けに比べ30〜40%キロあたりの単価が安いため、バター用の牛乳を作る優先順位は低い。単価の高い順から牛乳→生クリーム・チーズ→バター・脱脂粉乳の順に生産されるため、乳製品価格全体が上昇するとバターが真っ先に消えてしまうのだ。これも経済的には理にかなった理由である。
バターから見る 今後の日本農業あり方
国もタダで手をこまねいているわけではなく、今年の4月には1万トン(国内生産量の20%)を緊急輸入した。年末に向けて法人向け需要に海外産バターを当て込み、法人に向かっていた国産バターを個人向けに流通させる対策を立てている。※1
ただし乳製品の関税率は他の製品と比較して高いため、国にとってはお得な判断でない。経済全体では今後TPP(環太平洋連携協定)による関税撤廃と、それに伴うバターの自由競争が待ち望まれるところである。
この話題になると「それでは日本の農業は壊滅してしまうのではないか?」という議論が起こるが、農業は戦後ずっと保護政策のもと守られてきた「日本最後で最大の既得権益」が集まったビジネスである。
例えば海外産バターにかかっている輸入関税率は、平均で360%と異常なまでに高い。理由は国産乳製品の保護だ。便益を受けるのは農政と保護される生産者/関連団体となる。
他の産業においては、海外競合との価格・品質のせめぎ合い、生き残りをかけた大型合併、など収益をあげ続けるための構造変化が常に行われている。
日本という国全体を企業としてみたときに、トータル約1,000兆円、年に40兆円ずつ増えていく借金を減らしていくためには、保護産業の自立化(独立採算)と外貨の獲得が必須となる。
公益性や一定の段階を踏まえての行動が必要となるだろうが、農業は今後国際社会において競争優位性の高い分野への集中、もしくは高付加価値で差別化された商品の国内販路拡大・輸出など二極化傾向に向かうだろう。バターにおいても同じことだ。
不効率な農業界 ビジネスチャンスあり
歴史的に見ても、不効率な業界が変革期に入りはじめると、必ず不効率を効率化したり、新しい仕組みにフィットしたビジネスモデルによって革新的なサービスを生み出す企業が現れる。
農政は戦後以来となる大きな変革期に入っている。TPP問題による自由競争の激化や、JA(経済連)の形骸化により、今後農業に絡む生産物、不動産、保険、相続、人材、などあらゆる面でチャンスが生まれるはずだ。
現時点で起こりうる不効率な事態をチャンスと捉え、農業ビジネス業界に注目したい。
※1 農林水産省HP
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/lin/