トヨタ自動車は最近相次いで、社員の頑張り具合を給与に反映させる「技能発揮給」や、子育て支援と女性の就労促進を目的とした子ども手当4倍への引き上げ等、といった雇用維持施策を打ち出しています。これらは世の流れに沿った、グローバル企業ならではの方針転換のように思います。しかし中小企業が右ならえでこれらの施策を真似することは現実的とは言えません。労務のプロが解説してくれます。
トヨタ自動車は雇用維持に次々と施策を打つ
トヨタ自動車(以下:トヨタ)では、社員の頑張り具合を給与に反映させる「技能発揮給」を、2016年1月から導入することで労働組合と合意しました。
積極性や協調性などをもとにいかに仕事に取り組んだかを評価することで人材確保につなげるとしています。
またトヨタは子育て支援と女性の就労促進を目的に、7月にも家族手当を抜本的に見直し、配偶者の扶養手当を一律に廃止し、子どもへの手当を4倍に引き上げるという施策を立てました。
世の流れに沿った、グローバル企業ならではの方針転換のように思います。
トヨタの雇用維持施策は中小企業に合うか?
ただし、中小企業がトヨタ自動車と同じような施策を行うことは、果たして現実的なのでしょうか?
施策毎に中小企業との相性を見てみましょう。
1)社員の頑張り具合を給与に反映させる技能発揮給
中小企業にとって若者をターゲットにした制度なら、これで人材確保につながるのか疑問が生じます。
新規学卒就職者のうち、高校卒業者の39.2%,大学卒業者の31.0%が就職後3年以内に離職しています。(平成26年版子ども・若者白書)
若者の離職理由のトップは「 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」とのデータがあります。(平成25年若年者雇用実態調査)
つまり、人材確保につなげるのなら給与を上げるよりも、残業を減らし・休日を増やしたほうが効果的です。
若者は仕事と生活の調和を望んでいるのです。
一昔前であれば終身雇用の名のもとに先行投資もできましたが、離職率が約3分の1となっては事業主も二の足を踏んでしまいます。
残業一切禁止・年間休日140日で増収増益を続ける企業が岐阜にあります。
このような企業の制度を取り入れられるよう、社内体制を構築するほうが中小企業にとっては現実的かもしれません。
2)子供への手当の4倍引き上げ
ひと昔前では、基本給・○○手当・△△手当・□□手当・・・・のような給与体系を細分化する傾向にありました。
当然そのなかには家族手当や住宅手当などの属人給も含まれておりました。
しかし、現在では家族手当や住宅手当を廃止し、基本給・職務給(資格手当や営業手当)、時間外手当・通勤手当などのシンプルで、かつ、能力や成果にマッチした給与体系が主流となっております。
賞与も基本給連動型ではなく、人事考課をより重視した成果配分型が主流となっております。
そうすることで人件費率の上昇を抑えることができ、人件費の適正化が図れるメリットがあるからです。
さらに退職金は廃止縮小し、月例給や賞与にまわすことで将来の退職給付債務を回避することができます。
個々の企業実態で雇用維持施策は変化するもの
ニュースで大企業の雇用維持施策を見ていると、どうしても右ならえで「自社も取り入れる必要があるのだろうか?」と考えがちになります。
しかし、個々の企業で健全で最適な雇用維持施策はそれぞれ全く違うものです。
ぜひ御社の実態に合った雇用維持施策を、打ち立てていきましょう。