アジアの巨星リー・クアンユーが3月にこの世を去った。彼の政策は独裁的で功罪相半ばにすると言われるが、国民の彼を支持する声は大きい。理由は国民の富裕度にある。国民が富裕層になるために役立ったのが、国民皆貯蓄制度「CPF制度」だ。利益が出ている時ほど備えを怠らない仕組みとなっており、企業経営に対して大きな教訓を与える制度だ。
アジアの星リー・クアンユーがこの世を去る
3月23日に、シンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相が91歳で死去した。
独裁者と呼ばれた彼が行った数々の政策は、功罪相半ばにすると言われ、世界中で賞賛と批判の評価を双方得ている。にも関わらず、シンガポール国民の彼を支持する声は大きく、彼の死により国民は大きな悲しみに暮れている。
国民がこれほどリー・クアンユーを褒め称えるのは、マレー半島の先端に位置する小指の爪のように小さな国を、独立から30年あまりで東南アジア随一の先進国に育て上げたからだ。
彼の行ってきた政策のうち、「節約の精神」が垣間見える政策を本稿ではご紹介する。
稼いでも国民に強制貯蓄させるCPF制度
シンガポールは東京都とほぼ同等の面積を持つ国で、今年建国50年を迎える。1965年にマレーシアから独立し、まだ50年しか経っていないにも関わらず、豊かで経済的に恵まれた国に成長した。
富裕世帯の割合は世界一、国内総生産(GDP)と人口を計算して割り出す”一人当り購買力平価”は世界で第3位を誇る。日本は27位と遠く及ばない。
その礎を築く上で、リー・クアンユー元首相が強化したのが、国民皆貯蓄制度「CPF制度」である。
CPFとは、Central Provident Fundの頭文字をとったもので、日本語でいえば「中央積立基金」という意味だ。
CPFは、国が国民に対し強制的に積立貯金を行わせる制度で、国民はみな自身の専用口座を持ち、給与の20%が拠出される。
雇用主に対しても積立が義務化されており、14.5%が会社負担となる。日本でいう社会保険を想像させるが、CPFの場合は「保険」ではなく「貯蓄」であることが特徴だ。
使用できるのも本人に限定されており、他者のために使うことは親族内で必要があると認められた場合等に限定されている。
CPFは、以下の3つ口座に分かれており、使用できる年齢や用途が厳しく定められている。
- 口座1:住宅の購入、投資など 21歳以上(独身者は35歳まで使えない)
- 口座2:老後の年金、緊急事態など 55歳以上になれば一部を残して全額引き出せる。残りは62歳になると毎月決まった額を引き出せる。
- 口座3:入院費など 使えるのは入院のみで外来などでは使えない。
シンガポールのGDPは1980年台以降、驚異的な率で伸びていったが、狂乱的な好景気の中でもリー・クアンユーは、1984年に貯蓄率を更にあげた。
結果として、シンガポール国民の90%持ち家であり、無年金という状態が生まれないのである。
シンガポールは国家で企業がやることを成す
リー・クアンユー元首相は独裁支配を行った約30年の間、豊かな観光資源や国民性をいかに次世代につなげていくかを考え続けた。
CFP制度は「貯蓄」と「節約」が当たり前であることを、シンガポール国民に習慣として植え付け、シンガポールが国として”体力”を保ち続ける原点となっている。
企業なら当たり前のことを、リー・クアンユーはシンガポールという国単位でやってのけたのである。
業績の良さにあぐらをかかず、節約の精神を持つことの大切さを、リー・クアンユーとCFP制度は教えてくれる。