アマゾンが6月16日に、グルメ食料品スーパーのホールフーズマーケット(以下、ホールフーズ)を137億ドル(約1,500億円)で買収することを発表しました。アマゾンがホールフーズを買収したかったメリットがあるなら、ホールフーズにもアマゾンの買収に合意した理由(弱み)があるはずです。そのうち代表的な3つの弱みについて解説致します。
高級食品小売ホールフーズをアマゾンが買収
アマゾンが6月16日に、ホールフーズマーケット(以下、ホールフーズ)を137億ドル(約1,500億円)で買収することを発表しました。
ホールフーズは、高付加価値の食料品、特にオーガニック食品を米・英・カナダの約460店舗以上で販売する、売上高157億ドル(日本円で約1,730億円:2016年)のグルメ食料品スーパーです。
日本で言えば、成城石井のような雰囲気といえばわかりやすいですが、更に「オーガニック」「無添加」という基準を厳しく縛ったプライベートブランドを展開しています。
どの商品を見ても、USDA(米国農務省)の農作物オーガニック認定基準マークか、その州の農作物オーガニック認定基準マークのついたラベルが貼付されています。
「コカ・コーラは売らない」これもホールフーズの商品基準です。
更に、日本人から見ると「ゲッ!」と思うくらいの高価格設定も同社の特徴です。
たとえば、3年ほど前に筆者がロサンゼルスのホールフーズへ行った時は、オーガニックのデコポン(現地ではSumo Orangeと呼ばれる)が、なんと1玉約700円で販売されていました。
このような高価格商品を、いわゆる富裕層で健康に気を遣っている人達に熱心に購入してもらう、そんな形でホールフーズは1,750億円を稼いでいます。
その利益率は昨年の時点で3%近くあり、総面積1平方フィート当たりの売上高も国内で最も高いなど、アメリカでは圧倒的な成績を誇るスーパーマーケットです。
ホールフーズがアマゾンと手を取りたかったワケ〜3つの弱み
なぜ、アマゾンがホールフーズを買収したのかについては、ホールフーズの強みという観点からニュースが多数取り上げています。
つまり、
- 都市圏を中心とする約460店舗を結ぶ物流網
- 富裕層を中心とした年間3,000万人以上の顧客
- 過去20年連続でFORTUNEの「働きがいのある最高の企業100社」入りする企業ブランド
などの強みです。
しかし、強みだけしかないならホールフーズはアマゾンの買収提案に乗る必要がありません。
当然、ホールフーズにとっても補いたい弱みがあるはずです。そのうち3つをご紹介します。
1)国内市場への大きな依存
ホールフーズは460以上の店舗を運営していますが、その95%以上はアメリカ国内に居を構えています。
ここ数年、ホールフーズはアメリカ国内で1,200店舗以上の出店目標を立て、2013年には340店舗強だったものを4年で100店舗以上新設する攻めの策に出ました。
しかし、短期間の積極出店により起こったのは、ウォルマートなど低価格商品を販売する店舗と商圏が被ることによる顧客獲得競争です。
より安価な商品を購入したいと感じ、価格に敏感な消費者にとって、ホールフーズの商品はあまり魅力を感じられないものだったようです。
この煽りを受けて、ホールフーズはここ3年(2014年から2016年通期)で売上こそ伸ばしているものの、営業利益、純利益を共に落としています。
ホールフーズがそのブランド価値と価格を守るには、国内出店は慎重に場所を見定めると同時に、海外市場へも販路を広げるよう、策を練り直すしかありませんでした。
2)オーガニック食品市場内における競争の激化
アメリカ国内におけるオーガニック食品市場の成長は凄まじい勢いです。
2011年時点のオーガニック食品市場の規模が約2.9兆円だったのに対して、4年後の2015年にその市場規模は約4兆円に到達しました。※
ただし、オーガニック食品市場の拡大に多大な影響を与えたのは、新たにオーガニック商品を扱い始めた競合の出現です。
ウォルマートはもちろん、コストコなどのメジャーどころがオーガニック食品をこぞって扱い始め、スプラウト・ファーマーズ・マーケットなどのオーガニック食品を扱う新興勢力も攻勢をかけています。
しかも、彼らの取り扱うオーガニック商品は、品質の是非はともかく、ホールフーズと比較して安価で購入できます。
ここでホールフーズが仕掛けたのは、今までよりも低価格路線でシンプルな新しい店舗形態をスタートさせることでした。※2
しかし、これら積極政策は決定的な打開策とはならず、同社からは2020年までに3億ドル(約330億円)のコスト削減を行うことが大きな目標として提示されることになりました。※3
ホールフーズがオーガニック食品市場の確固たるブランドであり、市場におけるビッグプレイヤーである点は不動の事実ですが、競合と戦うにはより優れた商品企画力と、彼らを引き離す大きな市場を手に入れる必要がありました。
3)限られたサプライヤーネットワーク
年々拡大するオーガニック食品市場ですが、アメリカ国内においてもその規模は、全食品市場において10%程度の規模に過ぎません。※
市場プレイヤーはまだ少なく、供給者(サプライヤー)のネットワーク構築も、これからの話です。
また、地球温暖化はホールフーズにとって大きな脅威となっており、気候変動は食糧生産を大幅に変化させる可能性があります。
ホールフーズは自社のプライベートブランド商品に高い基準を要求しており、これがブランド構築の強みであると同時に、規模拡大に伴う仕入れ交渉、原材料確保の弱みともなりますす。
このような状況を改善するには、更なる販売網の拡大により仕入力(購買力)を強化し、規模の経済性をより強める必要があり、世界最大のECサイトを運営するアマゾンとの協業は願ってもない打開策となります。
日本国内でもアマゾンは生鮮食品市場へ算入
このように、ホールフーズの立場から見ても、アマゾンによる同社の買収には弱みを補うメリットが存在します。
アマゾンの効率化を尊ぶ文化を、ホールフーズがどのように取り入れて、オーガニック食品市場を席巻しようとしているのかにも注目して良いのではないでしょうか。
日本でもアマゾンは今年の4月末に生鮮食品市場へ参入しており、今後同じような戦略をどこかで取る可能性が十分にあり得ます。
その時、アマゾンがどのような会社と握手するのか、それを見定める意味でも、今回のホールフーズ買収後の展開はとても気になるところです。
※Organic Market Analysis
https://www.ota.com/resources/market-analysis
※2Whole Foods Market Delivers Record Q2 Sales and EPS
http://assets.wholefoodsmarket.com/www/company-info/investor-relations/financial-press-releases/2015/2Q15-WFM-financial-results.pdf
※3Whole Foods Market 2nd Quarter Earnings Script
http://investor.wholefoodsmarket.com/investors/events-and-presentations/event-details/2017/2nd-Quarter-Earnings-Script-2017/default.aspx