1月17日(火)に、東京オリンピックのマスコットキャラクター選定の議論が始まったことが報道されました。マスコットキャラクターを選定する際に大事なのは、名称を他の先行商標にバッティングしないように決め、キャラクターを真似されぬように守ることです。これを実現するためにどのような権利を行使すればよいか?解説いたします。
東京オリンピックのキャラクター名称決め始まる
朝日新聞1月17日号に、『五輪マスコット選び、「炎上」大丈夫? 商標登録、難題』という記事が掲載されていました。
ついに、東京オリンピックのマスコットキャラクターについて、選定の議論が始まったことを伝えるものです。
東京オリンピックについては、ロゴ盗用疑惑という問題もありましたから、関係者の方は今回のマスコット選定にあたり、神経をすり減らしていることでしょう。
さて、記事の中では肝心な「何が難題か?」という論点は書かれていないのですが、キャラクター「そのもの」を決めるのは、名称に比べると他社の先行商標とバッティングする可能性が少ないので、難題と報じるほどのものではないように思います。
おそらく難題とあるのは、キャラクターの「名称」のことでしょう。
五輪マスコットキャラクターの名称ですので、特許庁が定める商標登録の全45区分を網羅することを検討されているのだと思いますが、覚えやすく親しみやすくしかも短い名称で、45区分を網羅しようとするのは確かに難題です。
マスコットキャラクターの名称はどうやって決まる?
公募方式で名称を決める場合は、例えば、公募された名称をいくつかに絞り込み、絞り込んだ候補について商標調査を実施します。
そして、商標登録を取得できる候補の中から、名称を最終決定するというプロセスを採ります。
ただ、覚えやすく親しみやすく、しかも短い名称は、五輪に限らず企業が事業活動で使いたい名称ですから、どこかの区分で商標登録されている可能性が高いことが考えられます。
しかも、オリンピックのような世界的イベントゆえに、全世界的に商標登録を取得しようとすると、さらにハードルが高くなります。
Googleの音声認識のように、会議の場で上がった名称をしゃべると、商標調査をその場で実施し結果を表示できるソフトがほしいところです。
いや、もしかしたら既にあるのかもしれません。
マスコットキャラクターは著作権である程度保護できる
もし、この問題をクリアしたとして、次はキャラクターを守る必要があります。
ビジネスで利用する価値が非常に高いため、これを盗用・悪用しようとする輩が必ず現れるからです。
実は、五輪マスコットのようなキャラクターは、商標登録だけでなく著作権でも保護することができます。
これらの範囲は重複する部分もありますが、それぞれがカバーする部分もありますので、商標登録と著作権があれば、より手厚い保護が実現できます。
人の行為で分類すると次のとおりです。
便宜上、キャラクターの絵やキャラクター画像のことを、ここでは「キャラクター」といいます。
〔商標登録〕
- ・キャラクターを商品に付す
- ・キャラクターを付した商品を販売
- ・サービス提供に使う物にキャラクターを付す
- ・キャラクターを付した物を使ってサービスを提供
- ・キャラクターを付した物をサービス提供のために展示
- ・サービスを受けた顧客の物にキャラクターを付す
- ・画面にキャラクターを表示してサービスを提供
- ・商品やサービスの広告にキャラクターを付す
〔著作権〕
- ・キャラクターをコピー
- ・キャラクターを上映
- ・キャラクターをHPで公開
- ・キャラクターを展示
- ・キャラクターを販売
- ・キャラクターをレンタル
- ・キャラクターをアレンジ
- ・キャラクターを題材とした新たな創作物をコピー等
商標登録は商品やサービスとの関係が必要なのに対し、著作権はキャラクターを利用する行為が対象となります。
上記の行為は、商標登録や著作権を持っている人だけができ、第三者がすることは禁止されます。
著作権は商標登録と比較して弱点を持っている
商標登録は特許庁で登録を受けなければ取得できないのに対し、著作権はキャラクターを制作するのと同時に発生し、これを取得することができます。
このように、著作権では自動的に保護を受けることができるのに、なぜ敢えて商標登録まで取得する必要があるのでしょうか。
それは、著作権は商標登録に比べて弱い権利であるという点があり、オリンピックのような大きなイベントで商品販売を展開する場合に、この点が足を引っ張ることがあるからです。
著作権の弱さを理解するために、次のことを押さえておきましょう。
知的財産権には、相対的独占権と、絶対的独占権という区別があります。
ちょっと難しい言葉ですが、分かりやすく説明します。
相対的独占権
著作権は、相対的独占権になります。
相対的独占権とは、同じキャラクターであっても、他社が五輪キャラクターを真似しないで独自に制作したキャラクターであれば、五輪キャラクターの著作権には抵触しないという性質の権利です。
このことは、他社に対し「五輪キャラクターと似たキャラクターを使わないで」と主張するときに制約となります。
すなわち、真似したかどうかという事実が必要となり、真似したのであれば五輪キャラクターの著作権に抵触するが、真似していないのであれば五輪キャラクターの著作権には抵触しないということです。
絶対的独占権
これに対し、商標権(商標登録の権利のこと)は、絶対的独占権になります。
絶対的独占権とは、真似したかどうかの事実は関係なく、キャラクターを見比べてそれらが似ていれば、五輪キャラクターの商標権に抵触するという性質の権利です。
もめ事を簡単に解決する方法は「商標登録も取得すること」
したがって、著作権だけでは、真似したかどうかの事実が必要であることから、もし他社が真似したことを認めない場合は、他社が五輪キャラクターを真似したかどうかを証明しないとならず、もめ事が簡単に収まらないケースがあります。
しかし、商標登録も取得しておけば、真似したかどうかの事実について争うことなく、キャラクター同士を見比べて似ている場合は、使うのを止めてということができますので、もめ事が収まりやすいというメリットがあります。
オリンピック関連商品は山のように出ますから、もめ事が簡単に収まることはとても重要なことです。
ですから、キャラクター商品を展開する場合は著作権に加えて、商標登録も手堅く取得することが、ビジネス上のリスクを少なくする上で得策です。