検索サービス大手Google社の名称は、「ググる」という言葉になるくらい日常生活で広く使われています。もしも、私達の社名・商品サービス名が同じように普通名称化したら、それはとても栄誉あることですが、一方で「自分達の名前なのに自分達が自由にコントロールできない」という大きなリスクをはらむことを意味します。どのようにこれを防げるか考えてみましょう。
Googleが「ググる」と「Google」の違いを巡り裁判
「これわからないんだけれど…」「ググったら?」
このように、検索サービス大手Google社(以下、Google)の名称は、一般動詞になるくらい日常生活で広く使われています。
企業の側から見れば、これだけ社会に自社商品・サービスが浸透しているなら、この「ググる」という動詞に入った自社の名称を悪用されぬため守る必要がある、と考えるのは当然です。
というのも直近、アメリカでGoogleが、この「ググる」という言葉を巡り、一般男性(原告)と争った裁判で、「Google」の名前は普通名称にはなっておらず、商標として保護されるという、Googleに有利な判決が出ました。
参考リンク:「グーグル」と「ググる」は別物 米高裁が商標権認める
この裁判の中で原告は、「Google」の名前は「ググる」(Let me google it)のように「Googleで検索する」という意味で広く使われているので、普通名称になっており、商標権は消滅していると主張しました。
これに対して裁判所は、「ググる」(Let me google it)と「Google」は別物の言葉であり、「Google」の名前は普通名称になっていないと判断しました。
「Google+◯◯(有名人の名前、ブランド名)」という言葉の組み合わせでドメインを取得しようとした原告の目論見は、あえなく阻まれる形となったのです。
ブランドが普通名称化するとき〜味の素の場合
この事件を考察すると、商標の「普通名称化」という問題に行き着きます。
商標があまりに有名になりすぎると、普通名称のように広く使用されてしまうことがあります。
例えば、「味の素」は「味の素社」のうま味調味料ですが、発売当初は、味の素社の商品しかなく、「味の素」の名前で広く知られました。
その後、他社からうま味調味料が発売されるようになると、これまでうま味調味料を「味の素」として認識されてきたことから、他社のうま味調味料も「味の素」と呼ぶようになります。
やがて、A社のうま味調味料も、B社のうま味調味料も、C社のうま味調味料も「味の素」として呼ばれるようになると、「味の素」と聞いたときに、味の素社のうま味調味料であるのか、他社のうま味調味料なのか、消費者から見ると区別がつかなくなります。
これが普通名称化という現象です。
このような現象が生じると、「味の素」の名前は、商品を区別するという商標としての機能が失われますので、1社に独占させるのではなく、広く誰でも使えるように開放されてしまいます。
企業としては、ブランドとして育ててきたのに、いつの間にか普通名称になってしまい、広く開放されてしまうという皮肉な結果になります。
ちなみに「味の素」の名前は、味の素社の企業努力の結果、普通名称化を免れたというエピソードがあります。
「ググる」のように自社ブランドが普通名称化することを見越した商標登録は可能
さて、話を元に戻しますと、「ググる」の言葉が「Googleで検索する」という意味で広く使われると、この言葉自体が普通名称化することになります。
しかし、今回の裁判では、「ググる」と「Google」は別物であるから、「Google」の名前は普通名称にはなっておらず、商標として保護されると判断しました。
では、もし日本で商品・サービスの名前が「ググる」のように、そのまま動詞となるような事態が起こった場合、商標登録することは可能なのでしょうか?
例えば、節約社長を見ることを「節ってる」などと言うようになった場合です。
まず、「節ってる」の言葉が流行る前の段階では、「節ってる」の言葉が「節約社長を見る」という意味で広く使われているとは言えないので、商標登録を受けることができます。
動詞であるからといって直ちに商標登録を受けられないというのではなく、例えば、動詞でも次のような商標が登録になっています。
- 「もってる」(登録5725500)
- 「メモッテル」(登録4622090)
- 「いけてる」(登録5130901)
- 「ついてる」(登録5181705)
- 「恋してる」(登録5759161)
普通名称化を見越して商標登録した言葉がコントロールできなくなる場合は大変なことに…
しかし、商標登録を受けた後に、「節ってる」の言葉が大流行し、皆がこぞって節約社長を見ることを「節ってる」というようになると、先ほどの「味の素」の例のように徐々に普通名称に近づいていきます。
このように、ある特定の社名やサービスが普通名称に近づいた時の判断ポイントは、
- ・不特定多数の企業に使われているかどうか?
- ・言葉の意味がサービスの品質や内容を表すものになっているかどうか?
という2つになります。
以下、詳細に説明いたしましょう。
不特定多数の企業に使われているかどうか?
不特定多数の企業に使われていると、サービスを区別するという商標としての機能が失われる可能性があります。
A社のニュースサイトを見ることも、B社のニュースサイトを見ることも、C社のニュースサイトを見ることも「節ってる」として呼ばれるようになると、「節ってる」と聞いたときに、節約社長社のニュースサイトであるのか、他社のニュースサイトなのか区別がつかなくなります。
言葉の意味がサービスの内容を表すものになっているかどうか?
言葉の意味は、使われ方によって変わる、いわば生き物のようなものです。
使い始めは、「節ってる」の言葉は何ら意味を持たない造語です。
しかし、節約社長を見ることを表して「節ってる」の言葉を皆が使い出すと、「節ってる」の言葉は「節約社長を見る」という意味を持つようになります。
そして、それがサービスの内容を表す意味として定着すると、「節ってる」の言葉を見ても、節約社長社が提供するサービスであると理解されず、ニュースサイトが提供するサービスの一種であると理解されてしまいます。
そうなると、サービスを区別するという商標としての機能が失われます。
節約社長社がこのような使い方を何ら注意もせず黙認していると、「節ってる」の言葉はやがて普通名称になります。
普通名称になっていくと、日本の場合は、商標権はそのまま生き残るのですが、商標登録に穴が空けられることになります。
すなわち、「節ってる」の言葉を使う行為に対し、商標登録を行使することができなくなるというわけです。
ブランドが有名になった時はブランド名の使い方に最新の注意が必要
もっと怖いことも想定しなければなりません。
アメリカの裁判例のように、「節ってる」の言葉が普通名詞のように使われていることに目を付け、「節約社長」の名前まで商標が無効であると主張する企業が出てくる可能性があるということです。
では、節約社長社は、どうすればよかったでしょうか。
「節ってる」の言葉を商標として保護したいのであれば、企業やユーザが「節約社長を見る」や「ニュースサイトを見る」という意味で「節ってる」の言葉を使ったときに厳重注意したり、辞書やブログなどに普通名称のように記載しないように厳重注意したりするなど、ネット上で使い方を常に監視し、正しい使い方を各方面に指導する必要があります。
ブランドが有名になり過ぎると、ブランド名の使い方について細心の注意を払わなければならないということです。
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