すし居酒屋「や台ずし」などを展開するヨシックスが、磯丸水産で有名なSFPダイニング(東京都)を相手取り、同社が運営する「磯丸すし」の外観の変更、損害賠償を求めて提訴しました。日本でも例が少ない、店の外観を知的財産として起こった事件の背景にはコメダ珈琲が同じ問題で提訴し、一定の成果を上げたことが深く関わっていそうです。
すし居酒屋「や台ずし」が外観の変更巡り「磯丸すし」を訴える
店の外観がそっくりで客を奪われたとして、すし居酒屋「や台ずし」が、すし屋「磯丸すし」を訴えたとの報道がありました。
店の外観がそっくりで客を奪われたとして、すし居酒屋「や台ずし」などを展開するヨシックス(名古屋市)は16日、すし屋「磯丸すし」を経営するSFPダイニング(東京都)を相手取り、外観の変更と約471万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。
店の外観を変更することと損害賠償を要求しています。
これまで店の外観を知的財産と位置づけて争われた例は少ないのですが、昨年末に店の外観が知的財産であるとして判決が出された「コメダ珈琲事件」が影響していると考えられます。
今回の事件を考える前に、コメダ珈琲事件でどのような点が問題となり、裁判所がどのような判断をしたのかを見ていくことが、分かりやすいと思いますので紹介します。
店の外観は知的財産になる?コメダ珈琲事件を振り返ってみよう
コメダ珈琲事件でも、今回の事件と同様に、店の外観が似ているとして争われました。
コメダ珈琲店は、ブランド化の取り組みの一つとして、統一的なコンセプトで人目を引く独自のデザインを施した喫茶店の外観を作り上げ、同じデザインの喫茶店を各地で展開するという取り組みを行っています。
このブランド化の取り組みのなかでは、独自のデザインが施された喫茶店の外観を顧客に覚えてもらい、顧客が喫茶店の外観を見たときにコメダ珈琲店やそこでのサービスを一緒に思い出してもらい、喫茶店に立ち寄ってもらうという導線を作り上げています。
したがって、コメダ珈琲店の外観は、コメダ珈琲店が企業努力によりよいサービスを顧客に提供することにより、顧客から得た評判(ブランド)を覚えておいてもらう大切な「しるし」になります。
一つの「しるし」に対し、一つのブランドが紐付いている状態であれば、その「しるし」を見た顧客は、コメダ珈琲店のことを思い出します。
しかし、一つの「しるし」に対し、2つ以上のブランドが紐付いている状態になると、その「しるし」を見ても、顧客はどのブランドか区別することができません。
より悪いことには、他の喫茶店をコメダ珈琲店と間違えてしまう、という事態が生じてしまいます。
ですから、コメダ珈琲店としては、コメダ珈琲店の外観は、顧客が再びコメダ珈琲店を利用してもらうための重要な知的財産であり、他社にマネされては困るわけです。
そこで、コメダ珈琲店は、コメダ珈琲店の外観にそっくりなデザインを施して、喫茶店を展開する他社を訴えたというわけです。
冒頭でお話した通り、これまで店の外観を知的財産と位置づけて争われた例は多くありません。
この事件でポイントとなった点は、店の外観が、顧客が再びコメダ珈琲店を利用してもらうための重要な「しるし」として機能しているかどうか、そして店の外観が有名であるかどうかでした。
この点、裁判所は、いずれもコメダ珈琲店の主張を認め、店の外観を変更することを命じました。
コメダ珈琲事件をきっかけに、店の外観も知的財産として保護される流れが生まれました。
今回の事件は、まさにコメダ珈琲事件と同様に、店の外観が似ているとして、や台ずし店が磯丸すし店を訴えたという内容ですから、コメダ珈琲事件の流れを受けているといえます。
米国で店の外観は“トレードドレス”として保護される
従って、今回の事件でポイントとなる点も同じように、
- 1)や台ずし店の外観が、顧客が再びや台ずし店を利用してもらうための大切な「しるし」として機能しているかどうか
- 2)や台ずし店の外観が有名であるかどうか
- 3)磯丸すしの外観がや台ずし店の外観と似ているかどうか
という部分になりそうです。
現在のところ我が国において、店の外観は、不正競争防止法による保護だけになっています。
しかし今後、コメダ珈琲店や、や台ずし店のように、統一的なコンセプトで人目を引く独自のデザインを店の外観に施し、顧客が再び自社サービスを利用してもらうための大切な「しるし」として使うケースが増えてくれば、商標法などで権利として保護できるようになってくるかもしれません。
ちなみに米国では、店の外観はトレードドレス※として保護されています。
※トレードドレス
消費者にその製品の出所を表示する、製品あるいはその包装(建物のデザインすらも該当しうる)の視覚的な外観の特徴であり、知的財産の一種。
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