世界中のユニークな宿泊施設をネットや携帯やタブレットで掲載・発見・予約できる、Airbnbが、旅行ガイド機能を導入すると発表しました。今回の新サービス発表は、自社が提供する真の価値をどう位置づけるべきかを考える意味で好例です。事業拡大する上でも、ブレない位置づけが事業の強さを決めます。
エアビーアンドビーが旅行ガイド機能を導入
少し前の話になりますが、世界中のユニークな宿泊施設をネットや携帯やタブレットで掲載・発見・予約できる、コミュニティー・マーケットプレイスAirbnb(以下「エアビーアンドビー」)が、旅行ガイド機能を導入すると発表しました。
エアビーアンドビーの新機能は、世界25都市のおすすめスポットを350万件収録し、ガイドブック的な役割を果たす。エアビーアンドビーの利用者は今年に入り1500万人を超えているが、この機能により、旅行先の見どころやレストランを探す際にもエアビーアンドビーが活用できる。この動きはイェルプ(Yelp)やトリップアドバイザー、グーグルマップなどから利益の一部を奪うことになるかもしれない。
エアビーアンドビーといえば、Uberと並んでシェアリング・エコノミーを代表する企業であり、「民泊」という分野において日本国内でも様々な議論を呼んでいます。
そのエアビーアンドビーが旅行ガイド機能を提供することについて、彼らが本当に提供したいものを軸に考えると、ごく自然の流れだと私は感じました。
自社が提供する真の価値を、どう位置づけるべきかを考える、良い事例だと思いましたので、取り上げてみます。
キャッチコピーから推測するAirbnbの考え方
この発表と同時期から、エアビーアンドビーが展開しているキャンペーンのキャッチコピーは、以下のとおりです。
「行くのではなく、暮らすのです(Don’t Go There. Live there.)」
また、サイトのトップは「暮らしてみよう(LIVE THERE)」になっています。
エアビーアンドビーは宿泊場所の情報を提供するサービス、と一般的には理解されています。
宿泊場所ということから真っ先に連想されるのは、「旅行(traveling)」という言葉だと思いますが、サイトのトップにはどこにもその言葉がありません。
日本語サイトでも、翻訳のニュアンス上一部には「旅行」という言葉が使われていますが、英語サイトの方ではその部分は「experience」という単語が使われています。
ここに、彼らが単なる旅行時の宿泊場所を提供するサービスではない、ということに関しての並々ならぬこだわりを感じます。
確かに、エアビーアンドビーは宿泊場所を探す人(ゲスト)と、部屋を提供する人(ホスト)を結びつけるサービスです。
しかし、この「民泊」の情報提供というサービスを通じて、真に提供したいのはホテルに宿泊することでは得られない「体験」であり、宿泊場所はその体験を得るための手段に過ぎません。
旅の楽しい体験はお金で得られるとは限らない
旅行ガイドブックを開けば、様々なお店の情報が紹介されています。人気のお店は観光客だらけということもしばしばです。
しかし、本当に美味しいお店や行って良かったと、心の底から思える体験が出来るのは、現地に住んでいる友人から教えてもらったお店であることが少なくありません。
私がバリに行った際に一番美味しかった食事は、ナイトマーケットの屋台で食べた一杯30円の焼きそばでした。
旅行の醍醐味とはまさにこういうところにあるのではないでしょうか。いかにも観光客向けのお店に行くために旅行するわけではないでしょうし、現地で暮らしている人たちは決してそういうお店には行かないでしょう。
エアビーアンドビーが掲げる「暮らしてみよう(LIVE THERE)」というキャッチコピーには、そういう思いが凝縮されており、宿泊場所を提供するだけではなく、現地で暮らすという体験をして欲しい、と考えていることが感じられます。
これがエアビーアンドビーが提供したい真の価値であるならば、現地のガイド機能の提供はごく自然な流れです。
もちろん、旅行会社が提供するような観光客向けのお店の情報ではなく、現地に実際に暮らしているホストたちがオススメするディープなスポットがたくさん掲載されることでしょう。
エアビーアンドビーが提供したいのは生活体験
この事業展開を見ていると、エアビーアンドビーの参入する市場の規模は、どんどん大きくなっていますが、彼らの顧客に対する姿勢は決してぶれていません。
顧客に提供したものがはっきりとしている企業は本当に強いです。
宿泊場所も、ガイド機能も「現地で暮らしてみるという体験」のためのツールに過ぎないということをよく分かっているのです。
ここがぶれない限り、エアビーアンドビーの真似をして民泊情報提供サイトを作ったとしても、決して彼らには勝てはしないでしょう。
「現地で暮らしてみるという体験」を提供する企業として、現時点ではエアビーアンドビーに競合はいないのです。