セブン&アイ・ホールディングスが、傘下の百貨店グループである、西武旭川店(北海道旭川市)とそごう柏店(千葉県柏市)を2016年9月末に閉鎖することを、3月に発表しました。首都圏の百貨店と比較した時に、地方百貨店の衰退は顕著な傾向として現れていますが、果たして地方百貨店に生き残りの道はないのでしょうか?エリアマーケティングのプロに解説していただきました。
旭川も柏も…地方百貨店が続々と閉店していく
地方百貨店の撤退が後を絶たない。
昨今のニュースによると、「そごう・西武」の西武旭川店(北海道旭川市)とそごう柏店(千葉県柏市)の今年9月末閉鎖が、大きな話題となっている。
1990年のバブル期に百貨店の市場規模は10兆円とも言われ、小売業におけるシェアも6%あったが、近年では6.2兆円で小売業におけるシェアも、4.4%と減少を続けている。
今後も地方の百貨店は、環境が好転する兆しは見えない状況となっている。
そこで今回は、地方百貨店の衰退の理由と、今後地方百貨店が再生の道へ向かうために必要な視点について、考察をしていきたい。
地方百貨店が衰退するに至った4つの要因とは
百貨店業界は、売上・シェア共に縮小しているが、実際は、首都圏と地方で大きな差がついている業界でもある。
首都圏の百貨店は、インバンドの影響と国内富俗層の取り込みに成功し、好調である一方、地方の百貨店は大幅に売上を落としているのが現状である。
このことから次の4つが、地方百貨店の衰退として大きく起因していることがわかる。
1)人口減少が顕著に売上に影響を与えている
人口減少問題は、地方であればある程、既に顕在化した問題となっている。実際に都市に人口が集まる傾向は強く、地方での人口減少の歯止めが効いていない。
それを補うべく、インバンドによる売上が補っていければ、まだいいのであるが、実際は地方ではインバンド効果も、まだまだ影響度としては弱いものがある。
この人口減少は、歯止めが効かない状況となっており、商圏内の人口が減少し、今後も継続して地方が苦戦する要因となっている。
2)地方経済の停滞
アベノミクス効果で経済は回復傾向と言えども、地方への波及はまだまだ影響度としては小さい。
その結果、百貨店の主要客層である、富俗層の絶対人数が地方では減少している。
地方経済が回復しなければ、百貨店の主要ターゲットを捉えることはできずに、継続して苦戦することが予測される。
3)郊外型のスーパーマーケットの出現
現在、地方では郊外型のスーパーマーケットが業績を伸ばし、更に出店も加速している。
スーパーマーケットでは手軽なブランドや商品が多数陳列され、ファミリー層の取り込みが進んでいる。
イオン等に代表される大型商業施設では、衣料品や食料品だけでなく、書籍や雑貨、映画館などの娯楽施設、飲食店等も多数出店しており、1日いても飽きない施設づくりが行われている。
つまり、地方百貨店の競合は地方では同じ百貨店もさることながら、郊外型のスーパーマーケットの影響が大きい。
特に地方では、車が来店手段となるため、広大な敷地に駐車場も多数完備されている郊外型スーパーの利便性は、百貨店に無い要素となっている。
4)時代がPBへ動いてきている
以前の地方百貨店は、国内外の高級ブランドを扱うことで成長を行ってきたが、ブランドの潮流はNB(ナショナルブランド)の商品となってきている。
それに加え、小売業でも好調なコンビニエンスストアやスーパーマーケットでは、NBからPB(プライベートブランド)の開発を積極的に実施し、売上を伸ばしてきている。
プライベートブランド最大の特徴は、オリジナル商品のスケールメリットを活用し、開発を行うため、当然、比較的価値の高いものを、お手頃な値段で供給することが可能という点である。
また、各社の独自性も打ち出すことが出来るため、その点で一般的な消費者の受け入れがしやすい商材となっている。
一方地方百貨店では、NB商品を主力に扱っているため、同じ商品が並ぶという同質化が図られることとなり、差別化がしにくいというのが実情である。
つまり、NBに対するブランド嗜好が薄まり、地方百貨店の商品優位性が弱っていることも、時代背景にあると考察される。
地方百貨店が生き残るために必要な2つの施策
上記の要因を考察すると、地方百貨店がとるべく、戦略は2つであると考えられる。
1)インバンド対策を官民一体で講じる必要がある
地方の人口減少は、基本的に止まる可能性が少なく、今後も加速することが容易に予想できる。
これを補うべく、インバウンド対策の強化が必要となるだろう。
地方の活性化を行う行政との連携と併せて免税対応だけでなく、海外の方にとって買い物がしやすい環境の構築、旅行としての導線の確保等の対策が必要となる。
2)地方百貨店として商品・施設の差別化を行う
地方経済の回復を待つのでは、経営は成り立たたないため、百貨店自体の差別化が必要となるだろう。
国内富俗層向けに偏った商品の充実だけでなく、プライベートブランドの開発等を通じたファミリー層の獲得を広げる取り組みが必要となる。
東京ではなく、地方百貨店だからこそ購入できる「風土モノ」の充実も、国内外の観光客を引き寄せるために必要な要素だ。
また、昔は、百貨店に行くと『楽しい』というイメージが強かったが、現在ではその『楽しさ』について郊外型スーパーマーケットに、その座を奪われている。
百貨店の施設設計そのものが現在の時代の変化に対して、変わって行く必要もあるだろう。
テナントの配置変更だけでなく、テナントの内容も『楽しさ』を追求した設計が必要になる。
集客マグネットとして潜在力は未だ大きいが…
地方百貨店は、今後も厳しい環境が続くことが予測される。
しかし、地方での百貨店は、大きな集客マグネットであることも事実であり、百貨店の周辺にある飲食店や小売店にも大きな影響を与える。
これは時代の変化でもあり、地方の百貨店が大きく変わらないといけないという現れでもあるのだ。
地方から新しい百貨店の形が生まれること期待し、今後も百貨店の動向を確認していきたい。