ホスピタリティとサービスの違いを、皆さんはご存知でしょうか?吉野家が他のファーストフードと比較して接客が良いと評価されるのは、ベテラン達による、新人に対するホスピタリティ教育が優れていることに大きな一因があります。人間が接客するサービスはホスピタリティ無しに生き残れません。
接客日本NO1が接客で一番大切にしていること
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
全国の熟練技能者が「技」を競う「第28回技能グランプリ」(2015年開催)のレストラン部門の優勝者は、木下稔也氏。
木下氏は、先週、主要国首脳会議(サミット)が開催された伊勢志摩にあるホテルのひとつ「伊勢志摩ロイヤルホテル」の飲食部マネージャーです。
レストランでの接客において超一流の技を発揮した木下氏が、レストランでの接客において大切にしていることは「感じ取る力」だそうです。
お客様が寒そうにしていたらひざ掛けを渡したり、のどが渇くタイミングで水をお出しするなど、お客様の感情や欲求を先読みし、声をかけられる前に適切な対応を行う。
そのくらいでなければ「プロ」としてお金をいただけない、木下氏はこのように考えています。
さすが、接客のプロです。
サービスとホスピタリティの違いとは何か?
さて、木下氏の考え方には「サービス」と「ホスピタリティ」の違いが明確に示されています。
そこで今回は、「サービス」と「ホスピタリティ」の違いについて解説しましょう。
「サービス」とは、お客様から言われたことに対応することです。
「お水ちょうだい」
「はい、承知いたしました」
これがサービスです。
一方、「ホスピタリティ」は、木下氏が実践していること。すなわち、言われる前に「お客様がやってほしいだろうな」と感じたことをやってあげることになります。
「お水お注ぎしましょうか?(残り少ないようですから)」
「あ、はい、ありがとう(ちょうどおかわりしようと思ってたんだよな・・・うれしい!)」
これがホスピタリティです。
「痒い所に手が届く」『気が利く」とお客様が喜んでもらえるのがホスピタリティであり、一般的に言われるサービスよりも、一段上の高度な対応と言えるでしょう。
サービスは、今日入ったばかりの新人でもできます。
「お水ちょうだい」「はい」
「ひざ掛けくれる」「はい」
「ごはんのおかわりください」「はい」
なにしろ、言われたことをやるだけですからね。
しかし、ホスピタリティは、注意深い観察と顧客心理を読み取る力が必要な行為であり、意識的なトレーニングと実戦経験が必要。一朝一夕ではできません。
牛丼吉野家のおばちゃんに学ぶホスピタリティ
ただし、新人に対しては、ちょっとした「コツ」を教えてあげることで、ホスピタリティ力を高めてあげることができます。
例えば、牛丼の吉野家では、いつもではありませんが、頼まなくても、おかわりのお茶やお水を注いでくれることがあります。
あれは、ベテランさんがこんな風に指導しているのです。
お客さんがお茶を飲んでいるときの‘あご’の角度を見てごらん。
お茶がたっぷり入ってるときは、あまりあごが上がらないけれど、お茶が少なくなったら、ぐっとあごが上がるだろ。
つまり、あごが高く上がっているのはお茶が残り少ないサインだ。そんなお客さんを見たら、お茶をお注ぎしましょうか?と聞いててあげなさい
雑なサービスが当たり前のファーストフードチェーンの中で、とりわけ吉野家の接客が心地よいのは、比較的高い水準のホスピタリティが提供されているからです。
お客さんが望んでいることを察する、ホスピタリティありきのサービスを文化として育んでいることが、根強い吉野家人気を支えている秘密だと私は思っています。
ホスピタリティ無くば代わりにロボットがいる
さて、サービスは新人さんでもできると申し上げましたが、もっと言えばペッパーくんのようなロボットでもそのうちできるようになるでしょう。(既にあちこちで実用化されていますし)
私は、ホスピタリティ力に欠けた店員さんがいる店に行くといつも思うのです。
「笑顔もない、言われないとできない、(ひどいところではしばしば)言われたこともやれない」のなら、生身の人間よりもいっそロボットのほうがましだと。
手ごろな値段が売りの小売店・飲食店においては、人材不足だけでなく、ホスピタリティ不足を補うため、将来はほぼすべて「ロボット店員」に代替されてしまうでしょう。
リアル店舗では、生身の人間同士のふれ合いこそが価値あるものなのに、それが失われていくのはなんとも残念なことです。
Photo credit: Norio.NAKAYAMA via Visualhunt / CC BY-SA