フォルクスワーゲンの不正行為が国益となるアメリカ合衆国

企業分析

 2015年9月18日アメリカの環境保護庁は、フォルクスワーゲン(以下:VW)が、アメリカの自動車排出ガス規制をクリアするため、ディーゼル自動車に不正なソフトウェアを搭載していたと発表しました。今回の不正によってVWは、今後しばらく暗中模索せざるを得ない事態を招いたと言って良いでしょう。VWの出方次第でアメリカは本気で同社を潰しに掛かる可能性もあるため政治的な決着も見込まれます。

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フォルクスワーゲンの巨大不正行為が米で発覚

 2015年9月18日、アメリカの環境保護庁は、フォルクスワーゲン(以下:VW)が、アメリカの自動車排出ガス規制をクリアするため、ディーゼル自動車に不正なソフトウェアを搭載していたと発表しました。

 不正の規模は2009年から今年までの間で、1,100万台にも登ると想定されています。

 2015年上期にはトヨタを抜いて、世界自動車販売台数で初の世界1位になり、栄華を極めるのは「これから」と考えていたであろう同社は、自らの手により自らの首を締めてしまいました。

 長年に渡り同社のCEOを務めていたウィンターコーン氏は、「VWには心機一転で再出発が必要」と述べて辞任しましたが、VWは問題の入り口に立ったに過ぎません。

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VWの不正はアメリカにとって国益に成り得る

 VWは、日本国内でも今年から積極的なメディアPR戦略を打ち出しています。TVコマーシャルでお馴染みとなった挿入歌の「ごきげんワーゲン」というフレーズを口ずさめる方も多いのではないでしょうか。

 しかし今回の不正によってVWは、今後しばらく暗中模索せざるを得ない状態が続きそうです。

 なぜならVWの出方次第で、アメリカは同社を本気で潰しにかかる可能性があるからです。

 その兆候は既に現れています。

 VWは今回の不正問題を受けて、9月22日に65億ユーロ(約8700億円)を特別損失に計上すると発表しました。

 それに対して、アメリカ政府はVWが用意する額の二倍以上、最大で180億ドル(約2兆1600億円)となる巨額の制裁金の支払いや、刑事訴追を匂わせています。

 VWの手持ちキャッシュは現時点で240億ドル(約2兆8,000億円)しかないため、十分納得行く説明や改善が行われなければ、アメリカ政府によってフォルクスワーゲンは身ぐるみを剥がされることになってしまいます。

 また、アメリカの新車販売台数は年間で約1,700万台になりますが、そのうちVWのディーゼル車が占めるシェアは3%弱程度しかありません。

 一方、VWの側から見ると、アメリカでの販売台数は全世界における自社販売台数(950万台)の約6%に相当し、年々シェアは高まっています。

 しかしアメリカにとって国益となり保護するべきは、ゼネラル・モーターズやシボレー、クライスラーといったビッグ3の自動車メーカーであり、彼らは国内外(アメリカ・欧州・アジア・南米地域)で、VWと壮絶なシェア争いを繰り広げております。

 あからさまにフォルクスワーゲンを潰すようなことはなくとも、イメージの低下による販売台数減が長引けば、結果としてアメリカは自国企業を保護し、他国企業の骨抜きに成功したことになります。

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VWを救うのは創業者でもあるドイツ政府

 今回の問題は一企業が解決できる規模ではないため、本国ドイツ政府とアメリカ間で政治的な取引が行われることが予想されます。

 VWが潰されることはドイツにとって、企業全体が雇用する30万人弱のうち国内で雇用する約45%が職を失い、その裾に広がる関連企業を合わせ1つの大都市が無くなってしまうほどの経済的ダメージとインパクトがあるからです。

 フォルクス(国民の・大衆の)ワーゲン(車)という言葉にも現れているように、VWは国策で創立された企業という歴史的経緯を踏まえても、ドイツがVWを潰すわけにはいきません。

 海外でビジネスを展開する際に、不正行為がどれだけ計り知れないダメージを自社にもたらすリスクとなるかを、今回の事件で振り返ることができます。

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