現役世代が誰でも確定拠出年金に加入できるような法律の改正案が衆議院で可決されました。「確定拠出年金」と聞くと「大企業のためのものだから自分には関係ない」と感じる経営者の方も多いようですが、ポイントを理解すると、確定拠出年金は老後に向けて非常に効率の良い資産形成手段のひとつだということがわかります。
確定拠出年金への加入対象者が広がる法案改正
先日、現役世代が誰でも確定拠出年金に加入できるような法律の改正案が衆議院で可決されました。
個人型確定拠出年金を使いやすくする確定拠出年金法改正案が3日午後の衆院本会議で、自民、民主、公明各党などの賛成多数で可決、衆院を通過した。自営業者らに限定している対象を主婦や公務員らに広げるほか、転職や出産後の再就職の際に、新たな職場に持ち運べるようにする。中小企業の企業年金普及策も盛り込んだ。(日本経済新聞:2015年9月3日)
このまま順調にいけば、2017年から専業主婦、公務員、企業年金加入者も、新たに個人型の確定拠出年金に加入可能となる予定です。
現状、2種類ある確定拠出年金への加入者は「企業型」の加入者は約530万人、それに対して「個人型」の加入者は約22万人しかいません。
今回の加入対象者を拡大する制度改正により、野村総合研究所では「個人型」の加入者が最大400万人増えると見込んでようです。
国として確定拠出年金を拡充しようとする背景には、「このままだと公的年金は先細りせざるを得ないから、老後の生活資金はある程度自分で準備してくださいね。その代わり、ちょっと税金“マケテ”あげるから…」というメッセージも多少は込められているのかもしれません。
ただ、そうは言っても、「確定拠出年金」とか「401k」と聞くと「大企業のためのものだから自分には関係ない」と感じる経営者の方は多いのではないでしょうか?
実は決してそんなことはないのです。
以下、経営者が会社ではなく「個人」で加入する場合の個人型の確定拠出年金について、そのメリット・デメリットを中心にお話ししていきます。
確定拠出年金は企業型と個人型の2タイプある
まず確定拠出年金の加入タイプについておさらいしましょう。
誰が掛金を拠出するかによって、確定拠出年金は大きく2つのタイプに分かれます。
会社が掛金を拠出するタイプを「企業型」、加入者本人(個人)が任意に掛金を拠出、もしくは運用の指図のみを行うタイプが「個人型」といいます。
経営者や個人事業主の方が「個人型」に加入する場合、月々の掛金の上限は以下のとおりです。
- ・自営業者等の第1号被保険者:月額68,000円(国民年金基金に加入している場合はその掛金と合わせて)
- ・企業年金(厚生年金基金等)がない会社の第2号被保険者(厚生年金の被保険者):月額23,000円
確定拠出年金の3つの税制優遇措置
先ほど「~ちょっと税金“マケテ”あげるから…」と触れたとおり、確定拠出年金には税制上の優遇措置があります。
1)掛金拠出時
掛金は“全額”所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となります。税額は、「収入」から「経費」(役員報酬であればその額によって決まる給与所得控除)と「控除」(配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除等)を差し引いた「課税所得金額」に対して一定の税率を乗じて計算されます。
課税所得金額が高いほど税金の負担は重くなります。
掛金が全額所得控除になるということは、その分だけ課税所得金額が下がります。課税所得金額が少なくなれば、その分税額も減ります。つまり、所得税・住民税の節税効果があるということです。
所得水準が高い方ほど税率が上がるため、この節税効果は高まります。
2)運用時
運用益に対しては、将来(原則60歳以降)お金を受取るときまで非課税です。
確定拠出年金で選択できる運用商品には投資信託のような元本が確保されていない商品だけではなく、定期預金のような元本確保型商品もあります。
その利息や売却益等に対して税金がかからないということです。運用益非課税の効果は、運用期間が長くなるほど高まります。
例えば、毎月1万円の掛金を30年間、年率2%で運用できた場合、給与として受け取った後のお金(税引き後)で運用した場合と比べると、拠出時、運用時の効果を合わせると100万円程度多くお金が積み上がります。
税金を資産形成上のコストと捉えると、自分のお金を目的に合わせて「どの口座」で運用するか?という観点も今後は重要になってくるといえます。
3)給付時(受取時)
確定拠出“年金”という名称ですが、積み立てたお金を一時金で受け取ることができます。
一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用されます。
例えば、積立期間が30年、積立金を一時金で受け取る場合、積立金が1,500万以下であれば税金はゼロになります。現行の税制においては、給付時も税金面で優遇が受けられるのです。
老後に向けた強制的な積立手段のひとつとして活用
ただし確定拠出年金には制限もあります。
確定拠出年金で積み立てたお金は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。
この点はデメリットと言えるかもしれません。ただ、老後に向けてという意味においては、非常に効率の良い資産形成手段といえます。
老後に向けた資産形成の選択肢は、経営者の方の場合いくつかあります。ご自身にとって納得性が高く、効率的な手段を選択することをオススメします。