獺祭のあり方は縮小市場を舞台とする企業のお手本

企業分析

 山口県の旭酒造が作る日本酒「獺祭」は、エヴァンゲリオンの葛城ミサトが愛飲している酒、オバマ大統領訪日の手土産として贈られたこともある酒、として今や誰しもが知る高級日本酒の代名詞となった。1,000年以上も続く「杜氏」を廃止し、日本酒の製造に”データ分析”という概念を持ち込んだ取り組みは、縮小し続ける市場で企業が生き残るヒントを与えてくれる。

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葛城ミサトやオバマ大統領も飲む高級日本酒

 杜氏のいない高級銘酒として有名な「獺祭」(だっさい)。

 山口県岩国市の旭酒造で作られている人気急上昇中のお酒だ。とにかくうまい酒として有名で、「新世紀エヴァンゲリオン」の葛城ミサトが愛飲している酒、オバマ大統領訪日の手土産として贈られたこともある酒としても知られている。

 「獺祭」の既存の常識を当たり前としない、本当の目的が達成されるために常識を打ち破り、成功に至るストーリーをご紹介しよう。

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常識を疑い常に新しきを求め続ける老舗酒蔵

 旭酒造は山口県の田舎町にある小さな酒蔵で、現在の桜井社長が父親の跡を継いで社長になった1984年には、売上激減、廃業寸前の状態だったという。お酒に関してはほぼ素人で、神戸灘の酒造メーカーの営業を3年していただけだった。

 櫻井社長は、なぜ日本酒を飲む人が激減しているのか、なぜ今売られている酒は売れないのかを考えることで、「『酔うため、売るための酒』ではなく『味わう酒』が必要」という結論を導き出した。

 味わう酒として、原料の米を50%も贅沢に削り取ることで出来上がる”大吟醸酒”を追い求め、6年以上の歳月をかけて完成したのが獺祭である。

 獺祭を売り出す際に掲げたテーマは「磨き二割三分」。これは米を削り取って磨き上げた23%分を使ったお酒という意味で、すなわち残りの77%は使っていないことを意味する。

 当時の最高割合は24%だったため、それよりも低くしなければインパクトを得られない、としたからだ。当然大きな話題となった。

 旭酒造はこれ意外にも、大吟醸しか作らない、杜氏制度を廃止して社員で作る、冬だけでなく年間で醸造する四季醸造を採用、など酒蔵としての常識を数々打ち破ってきた。

 旭酒造が行った最大の改革は、日本酒の製造に”データ分析”という概念を持ち込んだことである。

 本来は杜氏が行っていた、糖度や発酵途中途中の温度管理を、当初は社長自らが数年に渡り行ってきた。今では入社1年目の新人でさえ仕込みに参加できるほど綿密なマニュアルが出来上がっている。

 杜氏による仕込みを社員が行うためのデータ解析、その元となるデータ取得する機器類や設備、手間や費用面を度外視した”味わう酒造り”に徹した酒造メーカーを、消費者がほおっておくはずがない。現在では、海外への進出も成功、ニューヨークでは「sake=獺祭」として知られるほどになった。

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良い商品を生産し続けることが可能な仕組み

 日本酒文化は1,500年以上の長い歴史を経て、今にたどり着くが業界全体で消費量は落ち続けている。

 旭酒造は伸び悩む業界内でも、過去の慣習に囚われず、「高品質な日本酒を誰もが運用できる仕組みで作り続ける」ために、飛鳥時代から続く「杜氏制度」をあっさりと捨て、独自の位置を手に入れた。

 日本の多くの製造業界では、日本酒業界と同じように「国内消費量」がシュリンク(縮小)し続けている。

 今までと同じやり方で商品を製造しても、消費量が落ちているのだから儲からない、ビジネスモデルとして成り立たなくなっているケースが多い。

 大事なのは「高品質な商品を安定して生産し続けることが可能な仕組み」である。

 その上で、ビジネスの基本である、「数値を取ること」「数値を見て状況判断すること」そのうえで「商品作りの仕組みを再構築」すること、の大事さを獺祭は思い起こさせてくれる。

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