「夕張メロン」や「神戸ビーフ」、「市田柿」など誰もが知るご当地ブランドを保護する「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」が、6月1日に施行されました。登録を受けた地理的表示と同一もしくは類似の表示は今後厳しく禁じられます。制度の概要と趣旨並びに罰則規定をプロの消費生活アドバイザーが解説いたします。
「地理的表示保護制度」が6月から施行
品質、社会的評価その他の確立した特性が産地と結び付いている農産物や食品を、国がブランドとして保護する「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」が、6月1日に施行されました。
本制度は、産地と結び付いた品質に国のお墨付き(GIマーク)を付すことで商品を差別化し、地域一体となって、ブランド価値の維持・向上を図ることを後押ししています。
今後良く見るようになるであろう「GIマーク」
農林水産省には、すでに「夕張メロン」や「神戸ビーフ」、「市田柿」など、16団体19品目が申請され、早ければ年内に認定されそうです。
登録を受けた地理的表示と同一もしくは類似の表示は禁じられます。
制度導入の有無にかかわらず、農産物や食品の産地表示をする際には注意が必要です。
生産業者、流通業者、小売業者、その他食品等の表示の関係者の方々は、制度の概要と不正表示規制について、チェックしておきましょう。
「地理的表示保護制度」導入の背景とは?
これまで地域ブランドは、品質の統一化が図られず低品質産品の存在により評価が低下したり、そのブランドの基準を満たさないものが名称を冠して販売されるといった、品質の管理やブランド侵害への対応について課題がありました。
しかし、現在の商標制度では、品質を守る取組はあくまでも自主的な取組にすぎず、品質を制度的に担保できませんでした。
また、商標権は私権であり、侵害への対応は訴訟などによる自力救済となり、農林漁業者等が行うには限界がありました。
「地理的表示保護制度」は、その課題解決のために施行された制度です。
地理的表示保護制度の概要を見てみよう
地理的表示保護制度とは、「品質、社会的評価その他の確立した特性が産地と結び付いている産品について、その名称を知的財産として保護する」ことを趣旨として制定された制度です。
具体的には、「○○(地名)+□□(産品名)」で表示され、登録には、産品の特性を有した状態で、一定期間(概ね25年)生産が継続されていることが必要とされています。
登録及び規制の対象となる農林水産物等は、以下の4項目になります。
- 1)農林水産物(食用)
- 2)飲食料品
- 3)政令指定農林水産物:観賞用の植物、工芸農作物、観賞用の魚、立木竹、真珠
- 4)政令指定加工品:飼料、漆、竹材、精油、木炭、木材、畳表、生糸
(酒類、医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品は除く。)
また、制度の概要は以下のとおりです。
- 1)生産・加工業者の団体が「地理的表示」を生産地や品質等の基準とともに登録申請。(登録料、1件につき9万円。更新手続・費用不要)
- 2)農林水産大臣が審査の上、基準を満たすものに「地理的表示」及びGIマークの使用を認める。
- 3)登録を受けた団体が品質管理を実施。農林水産大臣が団体の品質管理体制をチェック。
- 4)不正使用があった場合は農林水産大臣が取締り。
- 5)生産者は登録された団体への加入等により、「地理的表示」を使用可。
(「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)」に基づく制度より)
類似した制度に特許庁所管の「地域団体商標制度」がありますが、以下の点が異なります。
- 1)地理的表示保護制度では不正使用などの対応は登録者ではなく国が行う
- 2)取り消されない限り権利が存続する
- 3)品質基準を設けている
- 4)地域共有の財産となるため独占排他的な使用はできない
地理的表示保護制度の狙いと厳しい罰則規定
地理的表示制度を導入することに対して、政府は以下のような狙いを持っています。
- 国が品質の“お墨付き”を与えることで、品質を守るもののみが市場に流通するようになる。
- GIマークにより、真正な地理的表示産品を消費者が一目で認識でき、他の産品との差別化が図られる。
- ブランド侵害に対し訴訟等の負担なく、自分たちのブランドを守ることが可能。
- 地域共有の財産として、地域の生産者全体が使用可能。地域活性化につなげられる。
- 真の日本の特産品の海外展開に寄与。
制度を有効化するために厳しい審査手続や、地理的表示及びGIマークの表示ルールが設けられています。
審査手続は1)申請の受付後、3ヶ月間にわたる第三者からの意見書提出の期間を設け、2)意見書提出期間が終了した後、学識経験者の意見聴取を経て、農林水産大臣による登録審査が行われるため、幅広い視点からのチェックを受ける仕組みになっています。
表示ルールでは、地理的表示は「登録された産品自体」と「登録産品を原材料として使用した加工品」に使用可能ですが、前者は併せてGIマークを付する必要があり(省略不可)、後者はGIマークを使用できません。
同時に、ある地理的表示が登録を受けた場合、登録産品でない商品に「登録を受けた地理的表示と同一および類似する表示」をすることを禁じています。
地理的表示及びGIマークの不正使用に対しては、措置命令を行い、改善されない場合には以下のように厳しい罰則が科されます。
地理的表示の不正使用:
- 個人: 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(併科可)
- 団体: 3億円以下の罰金
標章(GIマーク)の不正使用:
- 個人: 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(併科可)
- 団体: 1億円以下の罰金
産地ブランドを知的財産として保護する制度は、欧州を中心に100カ国以上が既に導入しています。
カマンベール・ドゥ・ノルマンディー(フランス)、プロシュート・ディ・パルマ(イタリア)などがその有名な例です。
現在、地理的表示法は日本国内でしか効力を有さないため、海外では保護されていません。しかし今後、各国と協定を結び、海外でも日本の地名ブランドが保護される仕組み作りを進める方針を政府は持っています。
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表示やマークの使用規制、行政の取締りの具体的な解説は以下のページで確認できます。
◆地理的表示及びGIマークの表示について(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/gi_mark/index.html
◆地理的表示法とは(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/outline/index.html