日本が生んだ新しい資本主義概念 公益資本主義とは

経済

 ”公益資本主義”とは、原 丈人氏が2009年の著書「新しい資本主義」の中で唱えた新しい資本主義概念である。「企業は社会のもの」として、より良い製品やサービスを世に提供することを目的に存在するからこそ、健全な資金と収益が得られ、社会の発展が成就するというのが同氏の考えである。マネーゲームの様相を強める世界に一石を投じる概念を解説する。

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21世紀に誕生した公益資本主義という新概念

 「世界の人口の1%が、全世界の富の半分を独占する」そんなことを言われるようになってから久しい。

 この先ますます貧富の差は拡大すると予測する専門家もいる。

 このところ円安傾向が続き、日経平均株価が2万円台になった今だからこそ、もう一度”公益資本主義”の持つ意味を考えてみたい。

 ”公益資本主義”とは、原 丈人氏が2009年の著書「新しい資本主義」の中で唱えた概念だ。

 同氏は著書の中で、加熱したマネーゲームが世界の金融危機を引き起こし、このまま欧米型の株式資本主義が続けば、社会にとって有益な企業が崩壊すると、警鐘している。

 世界経済が低迷する中、次世代産業の芽をつぶさないためには、資本主義の原点に立ち戻って「会社とは何か」「幸せとは何か」を問い直し、”公益資本主義”へ転換する必要がある、とも説く。

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会社は株主だけでなく社会のものという概念

 原 丈人氏は、米シリコンバレーで活躍するベンチャーキャピタリストである。

 慶応大学を卒業後、スタンフォード大学のMBA(経営修士課程)に進み、同大学院では工学修士号も取得する。

 自ら会社を設立して成功を収め、情報通信分野の技術力をもつベンチャー企業のために資金を提供して数々の事業を育てた実績も持つ。

 また、日本の省庁や委員会、研究会のメンバーとして、”内部”からの変革をも行動で示してきた方である。

 前述著書で原氏は「企業は株主のもの」という考えを中心にした、欧米流の金融経済のあり方に警鐘を鳴らしている。

 本来、「企業は社会のもの」として、より良い製品やサービスを世に提供することを目的に存在するからこそ、健全な資金と収益が得られ、社会の発展へとつながっていくというのが原氏の提唱する「公益資本主義」の考え方だ。

 しかし、1980年代に入った頃から「企業は株主のもの」と唱えるベンチャーキャピタルや経営者たちがシリコンバレーを中心に横行しはじめ、短期間に(彼らのいう)”企業価値”を上げて儲ける目的、つまり、株式の時価総額を上げることが企業の存在理由となり、いまの金融経済の本流になってしまったと指摘する。

 マネーゲームのプレイヤーたちによって、会社はカネ儲けの手段として博打の掛け金を集めるツールになっている、と解釈すればわかりやすいだろう。

 その結果、金融市場を利用して集めた「株」という名の掛け金を操作できるプレイヤーだけが大儲けをするばかりか、さらには経済危機を引き起こし、企業から新しい産業を生み出す活力を奪っている状態にあるのだという。

 なお、世界の金持ちたち、そして多くの大企業からの絶大な信頼と人気を誇る”MBA”は、アメリカ型の「企業は株主のもの」をベースにして体系化された学位である。

 MBAを学び、本来のベンチャーキャピタリストとして企業を成長させた実績のある原氏だからこその説得力がある。

 さらに同氏によると、マネーゲームは21世紀に入ってますます加熱しているという。

 ゲームプレイヤーが企業の経営者となり、ストックオプションを使ってボロ儲けした例として、2007年に「不死鳥の如く甦った航空会社」で高く”評価”され、2011年に経営破綻したアメリカン航空が著書では取り上げられている。

 日本国内においても「もの言う株主」として話題になった”村上ファンド”や「企業価値の向上」に便乗した”ライブドア”が巻き起こした騒動を憶えている方は多いだろう。

 米国の”サブプライム住宅ローン問題”をきっかけに発生した、2009年の”リーマン・ショック”と”世界金融危機”は、世界中の経済に大きな衝撃を与え、ニッポンの財政はいまだに回復の兆しをみせない状態が続く。

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ROE至上主義に対する警鐘も鳴らされる

 「企業は株主のもの」という論理においては、投資家の資金が企業の利益に結び付いたかどうかを示す指標の”ROE(株主資本利益率)”の向上がなによりも最優先とされる。

 簡単に”ROE”を上げるには、研究開発、生産工場、人件費など、「金のかかる」コストを可能な限り削減すれば済み、商売で得た利益をコツコツと会社の中に蓄えた”内部留保”は、ムダな資産にしか映らなくなる。

 短期的に高いリターンを出すように株主から求められた経営者たちは(そして自分もその利益にあやかりたい人物のことを原氏は”CEOゴロ”と表現する)、時間をかけて育てる技術や研究開発、人材をいとも簡単に切り捨て、「経営の効率化」と称して目先の利益を追い求め、リストラに奔走するようになる。

 自社の大切な資産を削ってまでして、短期的なリターンばかりを求める株主を儲けさせようとすれば、世の中を豊かにするための事業投資がいつまでたっても実現しないことを原氏は憂慮している。

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公益資本主義は日本発祥の新しい資本主義

 原氏によると”公益資本主義”は、欧米型の株式資本主義でも、中国型の国家資本主義でもない、日本が産んだ第三の道であるという。

 昨今の国の政策には「次世代産業」というキーワードが随所に散りばめられ、株式市場においては、各メディア一丸となった派手なIR合戦が日々繰り広げられている。

 たしかに次世代産業への”期待感”は泡のように大きく膨らむのかもしれない。

 だが、少し冷静にみれば、形こそ違えど、動力、電気、半導体、バイオ技術などの従来からある産業構造から脱却していると言い切れるまでの、根幹をなす革新的なテクノロジーは今のところ生まれていない。

 現在の景気拡大の実態は、”ROE”を向上させることで企業の株価が上がり、大幅な金融緩和によって”カネ余りの相場”になっただけでしかない。

 ニッポンの中小企業にこそ次世代へ向けた活路は開かれている。

 そのためにも中小企業が国や大企業に依存しない、自立したメンタリティを持つ必要性も同氏は強調している。

 しかし優れた技術、前例にとらわない柔軟なアイディア、身軽なフットワークを合わせ持つ中小企業が、個性的な研究開発を続けていくためには十分な運転資金がどうしても不可欠だ。

 目先の利益を享受したいがために自ら衰退という道を選ぶのか、または、より良い社会を後世に残すために長い目で辛抱強く未来を育てていくのか?我々全員がいま、その岐路に立たされているのではないだろうか。

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