近い将来、AIにより、人が行ってきた仕事の大部分がリプレイスされると考えられていますが、加えて人から仕事を奪うもう一つの伏兵が存在します。それは「RPA(ロボットによるプロセスの自動化)」です。RPAは、従来、人が行ってきたあらゆる単純作業に入れ替わるプログラムであり、既に大手企業では導入が始まっています。将来、多くの単純作業が人の手からRPAに移行されることは間違えありません。
将来、あなたの仕事を奪うのはAIだけではない
こんにちは。マーケティングコンサルタントの松尾です。
以前の記事で、野村総合研究所と英オックスフォード大学の共同研究によると、10~20年後には、日本の労働人口の約49%が就いている職業がAIやロボット等に代替される可能性が高いという衝撃の予測をご紹介しました。
参考リンク:AIに仕事を奪われる職業と奪われにくい職業を10個ずつ見れば分かる未来の仕事
確かに、日々ニュースに上るように、このところのAIの進化は目覚ましいものがあり、AIによって職を失う人が増えるのではという懸念は強まっているように感じます。
しかし、仕事を奪うのは、実はAIだけではないのです。思わぬ伏兵がいました。それは「RPA(Robotic Process Automation)」です。直訳すると「ロボットによるプロセスの自動化」となります。
RPAは、従来、人が行ってきたあらゆる単純作業に入れ替わるプログラム
このRPAとは、いったい何者なのでしょうか?
AIが基本的に高度な知的作業を担うのに対し、RPAは、主にルーティンワーク、すなわち、定型的な単純作業を担うという点に違いがあります。
デジタル化が進んでいるとはいえ、日々の事務作業の中には結構単純な作業が残っているものです。例えば、オンラインで取得した受注データをダウンロードし、ファイル名を変更してCRMシステムにアップロードするといった作業です。
これってシンプルに言えば、データを右から左に移すだけの作業ですね。
「そんなのデータを自動移行するプログラムを開発すればいいんじゃないの?」
と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は結構な開発費がかかることが多いですし、CRMシステムをバージョンアップすると、プログラムの修正が必要になることがあります。
このように異なるアプリケーション等をつないでデータをやりとりしたり、照合したりするような業務を専用のアプリケーションに落とし込むのではなく、人が行っている手順どおりに作業を行わせるプログラムがRPAです。
人の行ってきた業務をRPAに入れ替えた例〜ダイワハウス工業の場合
エクセルで、複数の作業を特定の順番通りにやらせることのできる機能を「マクロ」と呼びますが、RPAはマクロに似たものだと言えるでしょう。
ただ、RPAでは、さまざまな業務、さまざまなアプリケーションに関わる定型作業を所定の手順通りにやらせることができる点が異なります。
具体事例をひとつご紹介しましょう。ダイワハウス工業では、下請け工事の発注先となる協力企業が適切な建設業許可を持っているかどうかを確認する作業を、従来は担当者が知識や経験をもとに行っていました。
そこで同社では、国土交通省のWebサイトから建設会社の許可情報を自動的に取得するロボットを開発。ロボットは4日間かけて1万2千件の許可情報を収集しました。そして、担当者が工事の種類などの発注情報を入力すると、ロボットがパートナーについての許可情報をすばやく照合してくれる仕組みを業務に組み込み、担当者の知識・経験不要で誤発注を防ぐことが容易になりました。
このケースの場合、許可情報の収集効率が高くなったわけではありません。ただ、ロボットは毎日24時間休みなく働き続けることが可能であり、しかも最新の許可情報を取得するために再び情報を取りに行かせたとしても文句を言うことはありません。
RPAの台頭が未来の私達の仕事に落とす光と影
RPAは、別名「デジタルレイバー(デジタル労働者)」と呼ばれます。単純作業を正確に延々と繰り返してくれ、労働時間・残業の制約なく、休憩・有休も不要、セクハラ・パワハラのリスクなし、鬱で苦しむこともなく、社内恋愛のトラブルもない(笑)と、労務問題に悩む企業にとっては大変ありがたい存在。
しかも、RPAによって大幅な人員削減、結果として経費削減が可能となり、企業の利益率改善におおいに貢献してくれるということで大注目されているわけです。人手不足対策にもなりえるでしょう。
このように、企業の立場から見れば、RPAは経費削減の即効薬、企業存続のための「光明」と言えますが、一方で仕事を失う人々が発生するという「影」の部分も忘れてはいけないでしょう。
実際、大企業においては、RPA導入で数億円相当の人件費削減に成功といったニュースが流れるようになっています。このなかには、業務に含まれる単純作業がなくなり、その分を別の考える作業に振り向けることができた分も含まれており、単純に解雇される人が増えたことを意味するわけではありません。
とはいえ、今後RPAが普及するにつれて、「RPAによって仕事がなくなった」と悲鳴を上げる人が増えていくのは間違いないでしょう。
RPAが台頭しても生身の人間にしかできない仕事は必ずある
AIによって知的職業が奪われ、RPAによって単純作業に従事する仕事が消えていく。労働者にとっては厳しい未来が待ち受けているように感じますが、AI、RPAの普及の波を押しとどめることはできません。
ただ、歴史を振り返ると、新たな技術によって一部の仕事がなくなる一方で新たな仕事が生まれるものですし、また、AIであれ、RPAであれ、決して代替できない、生身の人間にしかできない仕事は残るものだと思います。
私たち労働者にとって大事なことは、技術の進歩を絶えずチェックし、将来の仕事のあり方、望ましいキャリアデザインが何かを常々考えて軌道修正することです。
のほほんと、毎日の仕事を繰り返すだけでは、たちまち時代遅れになって淘汰されてしまいます。
Photo via VisualHunt