先週、米・ベインキャピタルが、日本の広告代理店業界で第三位につけるアサツーディ・ケイへTOBをかけることが先週報道されました。TOBによる出資額は最大1,500億円を超えると思われますが、アサツーディ・ケイの前期純利益はわずか20億円です。TOBをかけるベインが取っているであろうリスクヘッジの段取りについて考察します。
ベインキャピタルがアサツーディ・ケイにTOB
先週、米・ベインキャピタル(以下、ベイン)が、日本の広告代理店業界で第三位につけるアサツーディ・ケイ(以下、ADK)へTOBをかけることが先週報道されました。
参考リンク:株式会社アサツーディ・ケイ:ベインキャピタルによる当社株券等に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ
ADKと聞いて、「どこの会社?」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、同社はドラえもんやクレヨンしんちゃんなどアニメの企画制作には定評があり、コンテンツビジネスの世界では先駆者と言われる存在です。
ベインによるTOBと共に、1998年以来継続してきた世界広告代理店第一位WPPとの提携を取りやめるリリースも発表されました。
WPPの保有する24%超の株式も、ベインに移る手はずとなっています。
TOBに向けて、売却する側も買収される側も準備万端ということでしょう。
現時点におけるADKの業績に1,500億円出資の価値は見つからない
今回のTOBでは、現在のADKの株価に15%程度のプレミアをつけて、1株3,660円、50.1%を取得することが目標とされており、ベインの最大出資額は1,500億円程度となることが予想されます。
50.1%で1,500億円ということは全体で、3,000億円の評価となります。
それに対して、ADKの直近の営業利益は50億円程度、純利益で20億円強程度ですから、グループ内で業績が悪い企業が多いのかもしれません。
当然、業績回復は見込んでいるのでしょうが、仮にこの一年で100億円の純利益を出すような、物凄い業績向上を実現してもPERは30倍、現在の業績だけを見ていると買収価額が割安とは決して言えません。
ベインは今回出資する金額以上で売却しないとファンドとしては投資失敗となりますので、それ以上の株価によるexitが必要になります。
幾らコンテンツビジネスや企画制作に強みを持つアサツーディ・ケイとはいえ、ベインもこれだけ大掛かりな出資を決めた以上、どこかでリスクヘッジの段取りを取っているはずです。
財務諸表全体を見るとベインの算段が理解可能
実は1つの手がかりが、平成28年直近のアサツーディ・ケイADKの財務諸表から見て取れます。
1)売上高(円) | 3,526億 |
2)営業利益(円) | 55.6億 |
3)純利益(円) | 23.7億 |
4)投資有価証券(円) | 953.1億 |
5)その他有価証券評価差額金(円) | 453.4億 |
1)〜3)までは損益計算書(PL)の数値です。これだけで見るとベインの買い取りは相当高く見えます。
一方で貸借対照表(BS)を見ると、400億円以上の含み益がある投資有価証券が900億円程度あります。
これを加味してADKに時価総額3,000億円の評価を付けても、取得価額以上の高値の売却も含めて可能と判断したのでしょう。
ADKの今回のIRを見ても、ベインキャピタルが相当内部事情をあぶり出していることが伺われ、一見無謀に見られる今回のTOBも相当のデューデリジェンスの下に行われたと推測できます。