オレオレ詐欺は何も中高年の個人だけが被害者というワケではありません。会社に労働者の代理人を名乗る者が現れ、給料を受け取る代理人と称して、労働者の給料を詐取するケースが増えているのです。詐取が起こる原因は現金の直接支払ですが、これを防ぐ何らかの方法は無いのでしょうか?考えてみましょう。
法人版オレオレ詐欺は給料の支払で発生する
オレオレ詐欺で騙されるのは、何も中高年の個人だけではありません。
少し前の話ですが、クライアントの一社が日雇い労働者へ給料支払をしようとしたところ、その債務者と名乗る人物から、「本人から給料を自分が貰うことで合意を得ている。」と言われ、念書と共に提示されたため、思わず渡してしまったそうです。
しかし、その労働者に後で話を聞いたところ、債務者など存在しておらず、更に念書も偽物だということが判明しました。
要は、法人版のオレオレ詐欺事件が起きたのです。
さぁ、困ったことになりました。
この経営者さんは、詐欺犯と労働者へ給料を二重払いしなければならないのでしょうか?
給料の支払方法:原則は「賃金の直接払い」
給料は、労働者にとって最も重要な労働条件の1つでですから、労働基準法では、給与に関していくつか法律で制限しています。
その制限の1つとして法律では、「賃金の直接払い」という原則があります。
これは、給料は必ず労働者本人に支払わなければならない、という制限です。
逆に言えば、労働者本人以外に支払っても、それは給料を支払ったこととはならないのです。
冒頭でお伝えした事件のように代理人と称する者が、労働者本人の委任状を持っていたらどうでしょう?
結論から言いますと、たとえ代理人が委任状を持っていても、労働基準法で定める、「直接払い」には該当しません。
ですから、代理人と称する人物に給料を支払った後で、労働者本人が給料の支払いを求めてきたら、会社は労働者に給料を再度支払わなければなりません。
たとえ親が相手でも給料は原則的に直接支払い
今度は詐欺でないケースでも、「賃金の直接払い」を守らねばならないか考えてみましょう。
たとえば、未成年を雇っている場合に、その給料を本当の親が代理人として徴収しようとする場合が想定できます。
「親なんだから、給料を直接もらったって良いじゃないか!」と考える人もいるかもしれませんが、実は未成年者の親であっても給料受取りの代理人にはなれません。
「直接払い」の制限は、未成年者にも適用されるのです。
ですから、給料を直接支払う必要があるならば、必ず労働者本人に支払ってください。
夫婦の場合でも同じで、例えば、病気のご主人に代わって奥さんが給料を受取りにきた、という場合も、給料の直接払いが原則である点は変わりません。
騙されたくなければ給料の現金支払いは止めるのが得策
このような問題は、給料を直接、現金で支給している場合に起こることです。
銀行振込が面倒くさい、労基法違反のアシが付かないようにしたい、現金払いすることで会社のお金を工面したい、など、給料を現金払いしたいケースは確かにあります。
しかし、現金支払するならば、ここまで述べてきたようなリスクがついて回ることを理解すべきです。
もし嫌なら、給料の支給を銀行等にの振込に変えましょう。そうすれば、このような問題は防げることとなります。
それでも、どうしても現金で給料を支給しなければならぬ場合は、配偶者や親が給料を受取りに来たとしても安易に渡さず、一旦は本人に連絡を付けるようにしましょう。
本人と連絡がついてから、口座番号等を確認して、銀行等の本人口座へ振込を行い、本人と連絡が付かない場合は、裁判所へ供託するのが無難です。