3月27日(月)、格安旅行を提供していた「株式会社てるみくらぶ」が負債総額151億円を抱えて、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたことを明らかにしました。薄利多売と拡大政策が裏目に出た形ですが、過去にも同じような事例があり、経過も結果も全く同じものでした。ご紹介いたします。
負債総額151億円でてるみくらぶが破産へ
3月27日(月)、格安旅行を提供していた「株式会社てるみくらぶ(以下、てるみくらぶ)」が負債総額151億円を抱えて、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたことを明らかにしました。
債権者総数3万6266名の約100億円に達するとみられる旅行代金(債権)のうち、戻ってくるのは1.2億円程度しか無い予想になります。
卒業旅行や春休み旅行が盛んになるハイシーズンの出来事ゆえ、大きなショックを持って大々的な報道がなされています。
話は変わりまして、経済産業省のHP内には、ベンチャー企業の経営危機データベースというものがあります。
様々な企業の失敗例が掲載されているのですが、実はこの中にてるみくらぶと同業種の旅行代理店業務を行い、民事再生法を適用された会社の失敗事例があります。
参考リンク:No61.拡大志向に歯止めがかからず、無理な広告宣伝を続け収益を圧迫資金繰りに行き詰まる:経済産業省HP内「ベンチャー企業の経営危機データベース」
本事例とてるみくらぶの倒産は非常に似通っており、薄利多売と拡大政策を両輪で行うことがなぜマズイのか、教えてくれるものとなっています。
薄利多売と拡大政策は上手く行かないと瞬間で死亡する
まず、経営危機データベースで紹介されている企業のプロフィールは以下のとおりです。
以下、同社のことをA社とします。A社の会社概要はてるみくらぶと同じ旅行代理店です。
規模こそ違いますが、設立年は平成7年(てるみくらぶは平成10年)ですから、企業として成長した時代背景は全く同じと言えます。
1)創業から早いタイミングで成功体験を得る
上記のように、A社はダイビング、ゴルフ等の企画ツアーを組み、それらの商品が大ヒットしました。
てるみくらぶも、インターネットで格安の旅行ツアーを販売し、これが大ヒットすることで、新興系のインターネット系旅行代理店として大きく飛躍します。
ここまでは2社共にバッチリです。
2)売上停滞期に無計画な拡大政策を打ってしまう
A社はヒット商品である企画ツアーを更にヒットさせるため、多額の広告投資を追加で行いました。
ところが、大手業者などとの競合や需要一巡の影響で売上が停滞し始めます。
ここでA社は更なる拡大政策を取り、広告宣伝を増やします。
てるみくらぶも、競合他社との間で格安ツアーの競争が起きて赤字に転落した平成26年に、敢えて今まで以上の拡大政策を取りました。
インターネットだけではなく、読売新聞や朝日新聞といった高額な広告媒体へ広告費を投資したのです。
ただし、困ったときの拡大政策は非常に危険です。
以下の文章からわかるように、A社の広告投資は、付け焼き刃的で、費用対効果が全く考えられていなかったようです。
てるみくらぶも、費用対効果のわかるインターネットに注力せず拡大政策を優先し、計測効果が不明瞭な新聞広告へ多額の投資を始めてしまいました。
27日に行われた山田社長の会見は、その拡大政策の失敗を認めるものでした。
採用においても、直近の採用広告で毎年50〜100人を新卒採用応募するなど、その姿勢は誰の目から見ても明らかなものに。
しかし、上手く行かなくなった時に焦って手を打つ拡大政策は、パチンコに負けた人が負けを取り返すために、更に大きな額を追加で賭けるのと一緒の行為なのです。
3)薄利多売で少しの売上未達が大きく響きいきなりコケる
もう1つ、A社とてるみくらぶに共通していることがあります。
てるみくらぶは「格安旅行ツアー」を販売していましたが、転職サイトの口コミ等を見ると元社員は、「赤字でも顧客と契約するための料金設定を行った」などのエピソードを述べています。
おそらく、てるみくらぶは売上規模こそ、
- 平成19年:70億円
- 平成23年:130億円
- 平成28年:196億円
と拡大し続けていたものの、実際には利益がほとんど出ていなかったのでしょう。
A社も、たった4期で5億弱だった売上を一気に20億円へと拡大させました。しかし、表の下にある利益は「ほぼゼロ」のままです。
そしてA社は、最高売上を計上した期の翌期に民事再生法を申請します。
薄利多売にも関わらずムリに拡大政策を続けると、少し売上が下がっただけで資金繰りが加速度的に悪化します。
てるみくらぶも売上未達による資金繰りの悪化を食い止めるため、倒産のわずか1週間前まで「現金一括入金キャンペーン」を行っていましたが、既に付け焼き刃。
てるみくらぶは2-3週間前どころか、3/21に大きな新聞広告を出していた。読売東京本社発行分。現金一括入金キャンペーンって…。 pic.twitter.com/nrEBMeBQMY
— peco (@p_e_c_o) 2017年3月26日
これらの広告に従って現金一括入金した人のツアー代金は、会社運営の資金繰りに回されますが、返す目処など無かったはずです。
薄利多売・拡大政策⇒速くすることしか出来ないネズミの回し車
中小企業の資本は限られたものであるため、ちょっとした資金繰りのミスが命取りとなります。
薄利多売で拡大政策を続けるなら、よほどキャッシュの準備が無いと、売上減や入金の遅れで会社は簡単に潰れます。
一度この政策を始めると、ペースを速めることしか出来ないネズミの回し車に乗り始めたようなものです。
ペースはどんどん速くなりますから、降りるタイミングが遅くなればなるほど、スピードが速く回っている分、大怪我をします。
よほどのことがなければ、経営をコントロールすることなど出来ないのです。
取引先へのチケット代や宿泊代の未払い額の規模、入金を現金に絞っていたことに鑑みると、在庫の調整などによる粉飾もおそらく行われていたことでしょう。
この手法は、借金を自分のお金と思ってしまう経営者によく見られるものです。
対岸の火事では無く、私事として今回の事件を見つめられればと思います。